プロフィール
- 研究内容
『古事記』をはじめとする上代文学をどう読めるか、またどう読まれてきたのか、読まれることで何をつくりあげてきたのか。現代の私達自身の問題として考える。
Lab.letters
『古事記』を古典としてきた
日本人の輪郭を描き出す
日本の代表的な古典である『古事記』と『日本書紀』、どちらも漢字で記されたものですが、平仮名・片仮名がまだない時代に“漢字を用いて日本のことばを書こうとした”試みが見られる前者と、国際的な公用語である漢文を使った後者とでは大きく性格が異なります。国文学者の本居宣長は「事」と「ことば」と「心」は一つである、という考えから『古事記』を高く評価し、後の国文学に大きな影響を与えた注釈書『古事記伝』を著しました。以来、『古事記』を古典として持つことで形づくられてきた日本人とは何か。現代の私たちがその意味を考え、日本人の輪郭を描き出す取組みは、大学で「学問」として古典を研究する意義と密接に結びついています。
客観性と科学性を大切に
授業で研究世界の入口を体感
『古事記』研究を始める以前は海の生態学を専門としていましたが、〈生物と自然〉から〈人間と自然〉、そして〈人間と文化〉へと視点を広げていくうちに現在の『古事記』研究が専門に。文理の枠を超えても、客観性と科学性が求められる研究手法に変わりはないと実感しています。北海道大学は学生の学習意欲が高いため、研究者であり教育者である我々には理想の環境です。授業ではいつも対象となる研究分野の最新の課題を提供し、奥深い研究世界の入口を体感してもらえるような時間を共有できたらと考えています。
(聞き手・構成 佐藤優子)
メッセージ
書かれた言葉は、時にそれを書いた人間よりもずっと長く生きつづけ、そうした言葉が集まって〈文の世界〉を作りあげます。人間はリアルの世界だけに生きているのではありません。地球上のあらゆる生き物のなかで人間だけが、リアルの世界と〈文の世界〉というもうひとつの宇宙との中で二重の生を送るのです。
たとえ明日人類が滅んだとしても、書かれた言葉が残る限り〈文の世界〉は変わらず存在しつづけるでしょう。そしてそのなかには数知れぬ問いと答えがあり、恋や冒険があり、美や畏れがあるでしょう。そのような自立した世界と時に手を結び、時に鋭く対峙し、たいていは知らないうちに支配されながら、人間は生きています。
そうした〈文の世界〉と人間との関わりを探求し、その意味や人間にとっての価値を探るのが文学研究の役割です。なかでも私の専門とする上代文学研究は、『古事記』や『日本書紀』や『万葉集』を通じて、日本で〈文の世界〉が誕生したはじまりの時代を扱います。後の王朝文学や謡曲をはじめとする中世の芸能、さらには近世・近代の文芸にいたるまで、巨大に膨れあがって私たちを取り巻いてゆくことになる〈文の世界〉がどのように始まったのか、一緒に考えてみませんか。
研究活動
略歴
1968年生まれ。東京大学卒、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程中退、博士(学術)。東京大学助手、札幌大学准教授を経て現職へ。
主要業績
- 『新釈全訳 日本書紀〈上巻〉 巻第一~巻第七』神野志 隆光、金沢 英之、福田 武史、三上 喜孝 校注、(講談社、2021)
- 「『古事記』三重の采女の歌ーアメ・アヅマ・ヒナの位置づけを中心に」『万葉集研究』33、2012
- 「『古事記』の「天つ神御子」ーアマテラスの言依しとの関係を中心に」『万葉集研究』30、2009
- 「オシホミミの位置−ウケヒによる出生をめぐって」『国語と国文学』83-6、2006
- 『宣長と『三大考』』金沢英之著(笠間書院、2005)
- 『義経の冒険』金沢英之著(講談社、2012)
所属学会
- 上代文学会
- 万葉学会
- 古事記学会
- 鈴屋学会
- 等
教育活動
授業担当(文学部)
- 日本文学
- 日本文学演習
授業担当(文学院)
- 日本古典文化論特別演習
- 文献学(国語・国文)特別演習
授業担当(全学教育)
- 芸術と文学
おすすめの本
- 『山尾悠子作品集成』山尾悠子(国書刊行会)
日本語による幻想文学の極北にして、言葉と言葉によって綴られた物語がひとつの自立した宇宙であることを教えてくれる作品集。この引力に囚われよ。 - 北海道大学附属図書館Webサイトの「不朽の名著」のコーナー
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