2012.10.10

義経の冒険

英雄と異界をめぐる物語の文化史
著者名:
金沢英之(著)
文学院・文学研究院教員:
金沢 英之 かなざわ ひでゆき 教員ページ

内容紹介

中世の御伽草子「御曹子島渡」に描かれた、不思議な島々を経めぐり、鬼の国から兵法書を持ち帰る超人義経というキャラクター誕生の背後に、鬼や英雄の伝説と信仰を担い西から東を往き来した人々の姿や、古代の神話に遡る英雄の系譜、さらに中世から近世への移り変わりにともなう世界認識の変容などを読み解いてゆく、物語を読むことの冒険。

著者からのコメント

奥州衣川で落命したはずの義経がじつは生きのびていて、密かに北海道へ渡ってきたという伝承は、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。この手の話は江戸時代の前半から盛んに唱えられるようになったものですが、それに対して、一足早い室町時代の「御曹子島渡」に描かれるのは、元服して間もない頃、来るべき平家との戦いに備えて平泉に雌伏する、未来の英雄としての義経の姿です。
平家を倒し日本を源氏の世にせんがため、御曹子義経は兵法の秘術書を求めて北の海に乗り出す。航海の途中、義経は上半身が馬で下半身が人間という異形の住人の住む馬人島、女性ばかりが住み、漂着した男を捕まえては殺して島の守り神にしてしまうという女護の島など、奇想天外な島々を経めぐった先に、ようやくたどりついた蝦夷が島は、現実の北海道とはほど遠い鬼の住む世界だった。上陸した義経は、この世界の都を目指し、身の丈50メートルにも近い怖ろしげな鬼の王「かねひら大王」から秘術の巻物を手に入れるべく、大王の娘で絶世の美女「あさひ天女」の助けを得て、秘策をめぐらす……
ここに描かれた蝦夷が島には鬼の大王の治める都があり、私たちの住む世界とは別種の「異界」として描かれています。この異界は、物語の主人公に英雄的な力を与える宝を秘めた世界です。そこへ赴く義経にも、なじみ深い悲劇の主人公というよりも、想像の世界を駈けめぐる神話の英雄の面影が色濃く表れています。
この、異界と英雄をめぐる一篇の物語の背後に、どれほど広大な世界がひろがっているのか。物語から伸びる糸をひとつひとつ辿ってゆくようにして著したのが本書です。物語と世界と人間との関係をめぐる冒険に、一緒に旅立ってみませんか。

ISBN: 9784062585392
発行日: 2012.10.10
体裁: 四六判・280ページ
定価: 本体価格1,700円+税
出版社: 講談社
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

目次
第1章 『御曹子島渡』の謎
第2章 鞍馬の山奥から
第3章 東北というトポス
第4章 兵法書の秘密
第5章 中世都市京都の周辺
第6章 吉備真備入唐譚をさかのぼる
第7章 蝦夷ヶ島へ