プロフィール
- 研究内容
社会で不可視化され/沈黙する人びとに関する文化人類学的な研究を行っている。沈黙は、「隠す」のみならず、「言葉の不在」や「第三項の排除」が背景にあるとして、学際的・国際的な領域との共同研究に取り組んでいる。
- 研究分野
- 文化人類学、先住民研究
- キーワード
- アイヌ民族、オートエスノグラフィー、当事者研究、沈黙、痛み
- 文学院 担当専攻/講座/研究室
- 人文学専攻/アイヌ・先住民学講座/アイヌ・先住民学研究室
- 関連リンク
Lab.letters
マイノリティという色はない
当事者と考える「生きづらさ」
自分の属性について沈黙する、あるいは自分を取り巻く状況や環境について語る言葉を持たない。そうした文化人類学的な沈黙を研究のオリジナリティに据えています。私自身がアイヌの出自を持ち、その当事者性から始まった研究は現在、先住民フェミニズムを含め、水俣における様々な当事者や「ヤングケアラー」といった社会的課題などにおける「生きづらさ」を見つめる研究へと発展しています。多様性という言葉が定着しつつありますが、人は本来一人一人がカラフルな存在であり、マジョリティは無色透明ではなく、マイノリティという単色もありません。互いのカラフルさを許容し、対話を重ねていくことで初めて見えてくる日本社会の構造を立体的にとらえようとしています。
〈痛み〉と〈弱さ〉を肯定し
社会全体で捉える視点を持つ
自己責任論が優勢な日本社会で〈痛み〉や〈弱さ〉は忌避される傾向にありますが、人間はそもそも弱いから文化を持つ生き物です。人の痛みに触れることで、自分の中の漠然とした痛みに言葉を見出すことができるかもしれません。「誰が悪い」ではなく、皆で責任や役割を分かち合う社会のあり方について考える時間が、皆さんに新たな視点を育くむ糧になればと願っています。北海道大学はアイヌ・先住民研究センターをはじめ先住民研究に特化した関連組織が充実しており、学際的かつ国際的な研究も活発に進んでいます。私自身の民間企業経験を織り交ぜつつ、皆さんの思い思いの関心事を研究に昇華する知恵を共有していきたいです。
(聞き手・構成 佐藤優子)
メッセージ
オートエスノグラフィーは、日本で始まったばかりの方法論です。「まだない」言葉の創造ともいうことができるでしょう。私はこれまで、アイヌの出自を持ちながら沈黙する人びとについて、家族史とオートエスノグラフィーによって明らかにしてきました。この研究によって、様々な「沈黙する人びと」とつながり、自分がいる場所のままで、これまでとは異なる世界がみえるようになりました。
異文化というのは、遠くの地へ行かなくても、みなさんの周りに溢れているのかもしれません。沈黙に関する研究は、様々な領域、地域にわたり、知的好奇心に溢れた研究です。また、無理やりに沈黙を破らせるのではなく、沈黙を生む構造について明らかにしながら、その沈黙の周りにある痛みを癒す可能性を持っています。みなさんの足元の「異文化」について、深い知性と洞察によって、新たな言葉を創造していく仲間を求めています。
研究活動
略歴
北海道サッポロ生まれ。北星学園大学文学部英文学科卒、社会人として高校、専門学校等で勤務したのち、北海道大学大学院文学研究科修士課程入学。同大学院博士後期課程修了。博士(文学)。北海道大学文学研究員専門研究員を経て、現職。
主要業績
- 『〈沈黙〉の自伝的民族誌(オートエスノグラフィー) サイレント・アイヌの痛みと救済の物語』(北海道大学出版会)
- 「「サイレント・アイヌ」を描く―〈沈黙〉を照らすオートエスノグラフィーの可能性」『北海道民族学会』 、北海道民族学会、14 巻、pp.1-31、2018 年
- The Silent History of Ainu Liminars, Critical Asian Studies Special Issue; Hokkaidō 150: Settler Colonialism and Indigeneity in Modern Japan and Beyond, vol51.No4, pp17-21, 2019
所属学会
- 北海道民族学会
- 平和学会
- American Anthropological Association
教育活動
授業担当(文学院)
- アイヌ・先住民学海外特別演習
おすすめの本
- 『知の遠近法』山口昌男著(岩波書店)
北海道が生んだ知の巨人・山口昌男の著作で、読むたびに、世界旅行をしたような気分になります。山口昌男は、日本を飛び出て、アフリカやフランスで自由に思考を深めたフリーシンカーです。若い皆さんが、何かの枠組みに収まりきらない知性に触れて、大いに触発されることを楽しみにしています。