安達 大輔

プロフィール

安達 大輔 准教授 / ADACHI Daisuke
研究内容

18世紀から現代にいたるロシアの言語文化を、おもに文学作品とメディアの関係に焦点を当てて研究しています。

ゴーゴリを中心とするロマン主義文学と同時代のメディアの比較、カラムジンの創作活動を貫く文化間翻訳の問題のほか、ソ連初期のピアノ演奏理論から当時の身体観を浮かび上がらせた研究などもあります。現在はロシアのメロドラマに取り組んでいます。

研究分野
文学、表象・身体・メディア、ロシアの言語文化
キーワード
メロドラマ、文化理論、文学、舞台芸術、映像文化、音楽
文学院 担当専攻/講座/研究室
人文学専攻/スラブ・ユーラシア学講座/スラブ・ユーラシア学研究室
連絡先

研究室: スラブ・ユーラシア研究センター520
TEL: 011-706-3311
Email: adaisuke*slav.hokudai.ac.jp
(*を半角@に変えて入力ください)

研究生を希望される外国人留学生(日本在住者をふくむ)は、「研究生出願要項【外国人留学生】」に従って、定められた期間に応募してください。教員に直接メールを送信しても返信はありません。
関連リンク

Lab.letters

Lab.letters 研究室からのメッセージ
スラブ・ユーラシア学研究室安達 大輔 准教授

「違う自分」を見つめ続ける
ゴーゴリからの問いかけ

19世紀の近代ロシア文学におけるパイオニアの一人であるゴーゴリが生きた時代は、写真の創成期でもありました。ときに私たちが自分の写真を見て違和感を覚えるように、写真は「違う自分に直面させる」一面を持っています。この点から考えると実はゴーゴリも「違う自分といかに向き合っていくか」を我々に問いかけ続けた作家です。本当の自分の投影である「鼻」や「外套」をなくしたとき、人はどうふるまうのか。「私」「自分」とメディアとの関係は、19世紀当時のロシアと現代日本でどれほど重なり合い、どれほどずれるのか——。従来は文学の外にあると思われていたメディアや身体と接点を持ちながら、ゴーゴリ研究の視野を膨らませています。

ゴーゴリ研究の記念碑的著作であるA.ベールイ『ゴーゴリの至芸』(1934年)161頁より。ゴーゴリ作品における創作時期別のジェスチャーの変化を表している。上段の初期が滑らかで統合されているのに対し、下段の第2期になると映画のコマ割りのように動きが分割される。のちに写真や映画によって人間の動きが作られていく、その源流がゴーゴリ作品にあることを示唆している。
1845年ローマで撮影された写真。ゴーゴリ(赤い丸をつけた人物)が写っているとされる(出典:V.スターソフの論文「ローマでのゴーゴリとロシアの芸術家たち」)。
尊敬するロシア国立人文大学ユーリイ・マン教授の別荘を訪問。文学作品を丁寧かつ客観的に読む姿勢を教えていただいた。

豊かなロシア文学研究の伝統と
つながりを生むベストな環境で

ゴーゴリを読んだ学生がよく言う感想は「オチはどこに?」。一読しただけではわからないゴーゴリ作品をある意味、的確に表した言葉だと思います。ですがゴーゴリの魅力はまさにその「オチどこ?」にあり、普段見えている世界とは異なる世界を提示してくれるところ。目に見えるものを疑う近代文学の本質をうったえかけてくるところです。

北海道大学の文学院にはあらゆる時代をカバーするロシア文学研究の長く豊かな伝統があり、スラブ・ユーラシア研究センターには歴史、政治、経済、国際関係、言語、人類学などといった多彩な隣接分野や諸外国の優れた研究者とつながりながら研究できる刺激的な環境が整っています。この二つが揃う北海道大学こそ日本でベストな選択肢になりうると思っています。

(聞き手・構成 佐藤優子)

メッセージ

文学を読むのが好きな人なら、「高等遊民」や「余計者」といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。近代文学は社会から遊離しているという意識に苛まれる知識人をよく描くのですが、そうしたイメージを生み出した発生源の一つが、ゴーゴリやドストエフスキーといったロシア文学の作品です。

これまでの研究では、「社会の仲間に入れない」というルサンチマンと自分は「社会一般」と違う視点を持っていると思い込む自負の入り混じる人物たちの屈折した姿を、自分自身に重ね合わせながら興味深く見つめてきました。それは、社会を全体として想像させるほどの途方もない力を、文学がもっていたことの記録でもあるのです。

一風変わった「持ちつ持たれつ」ともいえる文学と社会のそうした関係は現在日本でもロシアでも変質しつつありますが、ヒトと社会の関係についてゆっくり見直そうとする時に、「文学とは何(だった)か」という一見関係のなさそうな問いが、意外に役立つかもしれない。そんな風に思ったら、もう地域研究への扉は目の前です。

私の研究・教育では、作品を緻密に読む作業を大切にしながら、その作品が読者にどう届くのかという「プロセス」に注目しています。それは作家の方法論(詩学)からメディア、身体までを含む、広い意味での「技術」を分析することです。ヒトを生み出す「技術」としての文学や文化からスラブ・ユーラシア地域を研究したい、そんな人々が集まる拠点をつくりたいと考えています。

研究活動

略歴

1975年生まれ、2000年東京大学文学部言語文化学科(スラヴ語スラヴ文学専修課程)卒業、2002年東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻(スラヴ語スラヴ文学専門分野)修士課程修了、 2013年同博士課程単位取得退学、同年博士号(文学)取得。2004-2006年日本学術振興会特別研究員(DC2)、2009-2011年同特別研究員(PD)、2013-2018年首都大学東京都市教養学部ほか非常勤講師、2014-2018年東京大学大学院人文社会系研究科研究員。2018年北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター准教授。

主要業績

  • Melodrama and War after Russia’s Invasion of Ukraine, Japanese Slavic and East European Studies 43, 2023.
  • Язык и поэтика Гоголя в трудах В. В. Виноградова по истории русского литературного языка // Грамматика в обществе, общество в грамматике: Исследования по нормативной грамматике славянских языков. М., 2021.
  • 『ロシア文化事典』(分担執筆:「余計者」(366-367頁)「ゴーゴリ」(384-385頁))丸善出版、2019年。
  • 「カラムジンの初期評論における翻訳とその外部」金沢美知子編『18世紀ロシア文学の諸相』 水声社、2016年。
  • 「表を見ることから痕跡に耳を澄ますことへ-ゴーゴリの痕跡学」『SLAVISTIKA』第31号、2016年。
  • Gesture of Trace: Rethinking ‘The Photographic’ in Gogol’s Writing, Hitotsubashi Journal of Arts and Sciences 56, no.1, 2015.
  • 「ゴーゴリ『友人たちとの文通からの抜粋箇所」における反省の展開』『スラヴ研究』第58号、2011年。
  • 「1920-30年代ソ連のピアノ奏法理論にみる、意識による身体の統御可能性をめぐる議論について」『SLAVISTIKA』第24号、2008年。
  • 「書記メディアとしてのポプリシチン-ゴーゴリ『狂人日記』と告白の変容」『ロシア語ロシア文学研究』第38号、2006年。
  • 「「作者」の文体、ナロードの言語-カラムジンの言語論における「趣味」の政治学」『ロシア語ロシア文学研究』第35号、2003年。

所属学会

  • 日本スラヴ学研究会
  • ロシア・東欧学会
  • 日本ロシア文学会
  • 日本18世紀ロシア研究会
  • AATSEEL

教育活動

授業担当(文学院)

  • スラブ・ユーラシア研究特殊講義
  • スラブ・ユーラシア総合研究特別演習
  • スラブ・ユーラシア文化研究特別演習

おすすめの本

  • ジョナサン・クレーリー著(遠藤知巳訳)『観察者の系譜:視覚空間の変容とモダニティ』
    現代の「見ること」を直接問うのではなく、あえて「19世紀的な視覚」という問題を経由することでこれまでとは違った仕方で考え直そうとする高度な戦略が見事です。