内容紹介
文学研究院芸術学研究室の北村清彦教授が2020年度をもって退職したことを記念し、刊行された論集です。全国各地の美術館等に就職し、アートの現場で活躍している37名の本学卒業生・修了生に、3名の本学教員、5名のゲスト執筆者が加わって、広範な議論を展開しています。一人の研究者ではカバーできない領域を横断的に論じていこうとする、共同的な探求の試みです。
著者からのコメント
同じ大学の同じ研究室で学んだとしても、それぞれの卒業後の進路は、言うまでもなく多種多様です。
本書の執筆に加わっている北大・芸術学研究室の卒業生・修了生で言えば、たとえば、北海道のさまざまなミュージアムで学芸員として活躍しているひとたちがいます。関東や関西、東北地方や中国地方の美術館等で、学芸員としての実績を積み重ねているひとたちも少なくありません。さらに大学やそのほかの研究機関で研究を続けるひとたちもいますし、そうかと思えば、新聞社やテレビ局の事業部等に所属して、あるいはフリーのライターとして、芸術に携わるひとたちもいます。
とはいえそれでも、たとえ居住地や立場が違っているとしても、芸術・アートという同じ業界で仕事をしているという一点においては、私たちは同じフィールドにいると言えるのかもしれません。
この本は、現在、全国各地で仕事をしている本学芸術学研究室の卒業生・修了生が、各々にとって切実な問題を持ち寄って論じ合った論文集です。ここに、研究室を立ち上げ、2020年度をもって退職された北村清彦本学名誉教授や、学内外にあってこれまで指導にあたってくださった先生方が、原稿を寄せてくださっています。また、表紙のために絵画作品を提供していただいた画家の池田光弘氏(京都芸術大学准教授)も、かつて本学の芸術学研究室で学んでいました。
全体としては、どこかゼミナールのような趣きの著作になっていると言えるでしょうか。ただし、それは、大学の教室内でひっそりと、社会から隔絶された状態で行われているようなイメージのゼミナールではありません。ここに持ち寄られた論点のひとつひとつは、芸術学という学問と社会との接点だと言ってもよいでしょう。多様な立場の論者が、多様な論点を扱っていること自体が、芸術学という学問の広がりと懐の深さを示してくれる、本書の強みであると考えています。