書香の森企画展示「縫い継がれた記憶進藤冬華展」〈第3期〉

縫い継がれた記憶 進藤冬華シリーズ展 vol.3
Stitched and inherited memories: Handiworks by Fuyuka Shindo

体験のためのレプリカ —「再現」によって過去とつながる —
Replicating to experience — Approaching the past through “representation”

遠い過去の歴史やある文化を知ろうとするとき、私は、文献を見たり博物館に行ったりするほか、資料を「再現」することで理解を深めようとします。北海道について調べていたとき、ある図録に掲載されていた縄文時代の骨角器を描き写そうとしたことがありました。単純なつくりに見えたのですが、いざ描き写すと簡単には描けません。そのときの「これは適当に作っているものではない」「誰かがよく考えて作っているのだ」という直感は、はるか昔の人と交信したような、不思議な感覚でした。当時私は布を使って自分の身近なものを制作していたので(第一回展参照)、この印象的な体験から骨角器のかたちも布でつくってみたのです。昔の人々にとって身近にあったものを、いま生きている自分にとって身近な素材で置き換えて「再現」すること——それは私にとって、過去にリアリティーを持ち、遠い昔の人々の暮らしをいまここに生きている自分の暮らしとつなげるために、自然なことでした。今回、北海道立北方民族博物館の収蔵品を、発砲スチロールや食品のケース、包装紙のような現代の日常的な素材で「再現」したシリーズも展示していますが、これらも、過去を現在とつなげて理解しようとする私の試みで生まれたものです。

このように博物館は、私にとって、遠い歴史や私の知らない文化に近づくための入り口のような位置づけでしたが、その博物館の資料収集の歴史にフォーカスしたのは、2016年のハンブルク(ドイツ)滞在だったと思います。19世紀末から20世紀はじめにヨーロッパにアイヌ資料が渡った背景を調べる中で、ハンブルクの民族博物館が、ヨーロッパでもとくにアイヌ資料を多く所蔵していることを知りました。実際に同博物館でコレクションの収蔵カードを閲覧し、資料収取を行う西洋のバイヤーの記録や少数民族を撮影した古写真の展示などを見た経験をもとに、博物館の民族資料等のレプリカをつくりました。架空の民族の、架空の博物館資料です。民族衣装はリサイクルショップで集めた素材で制作し、博物館の収蔵品カード、民族の記録は、当時の写真技術を使って撮影しました。資料を収集するバイヤーのポートレートもあります。

わたしの中には、民族資料を自分の方法でよみかえて公表することが、民族や文化の搾取につながるのかもしれないという懸念がずっとありました。その境界線がどこにあるのか現在も考えていますし、作品制作のときも頭を離れることはありません。ハンブルクの作品で、資料の現代的「再現」「レプリカ」にとどまらず、民族資料の収集過程までをも「再現」したことは、私にとって、これまで過去と自分を結ぶ入り口であった博物館と西欧の民族資料収集の背景や植民地化の歴史をつなげ、これまでとはちがった視点で民族や文化の搾取の問題について考える機会になったと思います。

(アーティスト・進藤冬華 テクスト作成協力: 浅沼敬子)

正面展示ケース

フード: アイヌの民族衣装風の架空の被りもの。
足袋: 和風の足袋風の架空の履きもの。ミトン: ウィルタの手袋風の架空の手袋
前かけ: アイヌの民族衣装風の架空のエプロン

手前展示ケース

記録—人物像(湿板写真)、記録—収集者(湿板写真)
カジュアル・レプリカ
骨角器のかたちの布作品 2点
架空の所蔵品カード