内容紹介
近年国内外で注目を集める映像アーティスト、山城知佳子。彼女の作家活動「10周年」となる2014年に開催されたアーティスト・トーク、彼女の作品群をそれぞれの切り口で振り返る3編の論考と図版集、参考文献集が収録された本書は、2009年に写真雑誌『LP』で特集された山城特集とともに最も包括的な山城作品論といえます。同時に、美術や映像の専門家が山城作品論を展開することで、より専門的な内容となっています。
著者からのコメント
私は、2010年の《恵比寿映像祭》ではじめて山城作品に出会いました。山城さんの『あなたの声が私の喉を通った』(2009年)と『沈む声、紅い息』(2010年)の前で釘づけになり、猛烈に「この作家に会いたい」と思ったのを覚えています。じっさい、特に前者は山城さんの名声を一挙に高めた作品といえ、現在も各国の展覧会に引っ張りだこです。しかし、学芸員でも批評家でもなかった私は、自分にその作家に会う手立てがあるとは思ってもいませんでした。
2013年、当時小樽の商科大学に勤めていた菅野優香さんが、通りすがりの私にやおら切り出した一言が「浅沼さん、山城知佳子さんを(北大に)呼んでみたくない?」でした。私は嬉々として恵比寿映像祭の企画者の岡村恵子さんに連絡を取り、自身の出産を経て、2014年に山城さんを札幌にお招きすることができました。札幌の上映会は私自身が主催者だったためじっくり作品を見ることができませんでしたが、2014年に沖縄で同じ上映プログラムを見たときの感動をいまでも忘れることができません。かつてスーザン・ソンタグは、写真における美と悲惨さの共存の倫理的可能性について書きました。山城作品は決して悲惨な出来事をあからさまに扱うことはありませんが、私は、そのあまりにも美しい映像の中にあまりにも多くの悲劇が込められていることを直感し、胸に「痛烈さ」を抱えながら画面を見つづけることになりました。…札幌の上映会に来てくださった方々も、いまでも、「山城さんの作品素晴らしかったです」と話してくださいます。
私は、従来沖縄で書かれることの多かったこの作家についてもっと書かれるべきだ、もっと多くの人に彼女の作品を見てほしいと思いました。それが本書作成の動機です。
私はもともと、ゲルハルト・リヒターというドイツの芸術家が、ホロコースト写真を描こうと腐心してきた過程を辿っていました。このときの私の関心も、悲惨な出来事の美的・倫理的表象可能性についてでした。しかし特定の写真の調査の継続が難しくなったこと等から、私は従来の研究方針を転換する必要を感じていました。山城作品を上映しようと動き出したとき、私は、彼女の作品が、私が古くから来た道に新しい道を継ぎ足してくれるとは思っていませんでした。…本書自体は小さな本ですが、私にとって一つの「結節」点となったと思っていますし、本研究科をはじめ、ご協力いただいたすべての方々に感謝しています。そして山城さんにとって、そしてご執筆いただいた東京国立近代美術館の鈴木勝雄さん、水戸芸術館の高橋瑞木さんにとっても、本書が新しい道への第一歩となってくれたら嬉しいと思っています。
外部リンク
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