2014.03.21

秘宝館という文化装置

著者名:
妙木 忍(元教員)
文学院・文学研究院教員:
妙木 忍(元教員) みょうき しのぶ

内容紹介

本書は、「秘宝館」という性をテーマにしたアミューズメント施設の成立・隆盛・衰退の理由と過程、秘宝館の成立を可能にした日本の歴史的条件について論じたものである。「複製身体の観光化」という視点から考察し、秘宝館の前史、医学と娯楽の併存、後に医学的要素が除去されていった過程を明らかにした。本書の意義は、余暇の社会史に対する貢献が考えられるとともに、資料的価値もある。残された課題を明示し、医学展示の日欧比較研究への展望も含めた。
 

著者からのコメント

 秘宝館という不思議な存在にめぐりあったのは京都大学大学院在学中のことでした。伊勢旅行に出かけたときに、知人が連れて行ってくれたのです。秘宝館が何かを知らなかった私は、驚いたように記憶しています。そして、そこに医学模型があったことが私をひきつけたのだと、後から気づきました。伊勢旅行をしたときには、まさか秘宝館を研究することになるとは思ってもいませんでした。そのときに連れて行ってくれた知人に感謝しています。
 2005年から本格的な調査を始めたものの、その道のりは長く細く、約9年を経て、この本が生まれました。秘宝館を作った人たちと出会い、彼らが日本のアミューズメントを支えてきた人たちでもあることを知り、彼らの情熱に対して尊敬の気持ちを抱きました。
 お世話になっているある方が、研究の初期に私に言いました。「秘宝館の研究をしなくても、教員をしていればよいではないか。なぜ秘宝館を研究するのか」と。私は答えに窮しつつも、どうしても秘宝館について知りたいのだとはっきり伝えました。そして、秘宝館はその方にとって子供のよう(に大切)なものだと話してくれた笑顔も忘れることができません。
 研究をするときには直感のようなものがあり、どうしてもあることを研究したい、それが私を離してくれない、ということがあります。私にとって秘宝館とは、そのようなものでした。さまざまな角度から秘宝館を研究することはできますが、今回私は、秘宝館の盛衰やその歴史的背景、作った方たちのライフヒストリーに特に注目してみました。彼らの人生や彼らの仕事への想いも、私をひきつけてやまなかったのです。そのためでしょう、今でも交流を大切にしています。
 一方、私は秘宝館を研究し始めたころより、医学模型の展示にも関心を持っています。秘宝館において医学的要素が生まれ、かつ、排除されていった過程は学術的に非常に面白いものですが、私は伊勢に医学的な展示(症例模型や胎児の成長モデルなど)があったことに関心を寄せています。2006年1月から2月にかけて私は、パリとボローニャとフィレンツェを訪れて3体の横たわる女性の人形を見ています。これもまた私の直感のようなものでしたが、この出会いはその後も重要な関心であり続けています。この関心は、秘宝館が女性の出産について扱っていたことと関連があります。今でもこれらの人形について考え続けており、秘宝館が私に与えたテーマは大きなものとなりました。
 秘宝館が私たちに残してくれた謎はまだまだあります。今回この本は秘宝館がテーマでしたが、秘宝館でなくても、私たちの身近には解きたい問いが満ちているように思います。それぞれの人が解きたい問いを自分で解く、こんなぜいたくな時間と思考を楽しむきっかけとなれば幸いです。

<刊行後の反響>

書評

  • 2014年4月30日、『大阪スポーツ』「新刊珍刊」「秘宝館を研究した1冊」
  • 2014年5月7日、『日本経済新聞』夕刊、「目利きが選ぶ今週の3冊」(井上章一)
  • 2014年5月18日、『北海道新聞』朝刊、「「大人の遊艶地」を再評価」(押野武志)
  • 2014年5月22日、『週刊新潮』菖蒲月増大号、「十行本棚」(無署名)
  • 2014年5月23日、『週刊朝日』、「話題の新刊」(江田晃一)
  • 2014年5月27日、『日刊ゲンダイ』、「週刊読書日記」「秘宝館の誕生と衰退。そして絶滅」(神崎宣武)
  • 2014年6月、『SAPIO』、「この本はこう読め② 絶滅寸前の「性の博物館」2館にまで激減した理由」(無署名)
  • 2014年6月7日、『図書新聞』第3161号、「書店員、オススメの一冊」「本気も本気な秘宝館」(鈴木毅)
  • 2014年8月24日、『摸乳巷』(科研「「乳房」の図像と記憶―中国・ロシア・日本の表象比較研究」連絡誌) 第五号、「乳房をめぐる夏の三冊」(田村容子)
  • 2016年6月20日(発行)、北海道社会学会『現代社会学研究』Vol.29、「妙木忍著『秘宝館という文化装置』(青弓社、2014年)」(坂無淳)
  • 2016年6月20日(発行)、北海道社会学会『現代社会学研究』Vol.29、「書評 リプライ」(妙木忍) 

著者を紹介した記事

秘宝館がテーマの記事(コメント)

  • 2014年5月11・18日、『サンデー毎日』、「残るは熱海、鬼怒川・・・昭和の遊艶地 秘宝館が絶滅危機」(菊地香)
  • 2014年9月10日、『北海道新聞』朝刊、「昭和薫る「文化遺産」」(佐藤大吾記者)
  • 2014年9月22日、『朝日新聞』夕刊、「消滅寸前 秘宝館のいま」(宮代栄一記者)
  • 2014年11月25日、『東京新聞』栃木版、「鬼怒川秘宝殿 年内閉館へ」(大野暢子記者)
  • 2014年12月4日、『東京新聞』東京版、「日光「鬼怒川秘宝殿」年内で幕」(大野暢子記者)
  • 2015年1月11日(日)『産経新聞』WEB版、「消えゆく「秘宝館」は今…“おじさん御用達”秘密の場所に増える女性客」(磨井慎吾記者)
  • 2015年1月14日(水)『産経新聞』、「秘宝館 盛衰 団体客激減 国内1館に」(磨井慎吾記者)
  • 2015年1月25日号『サンデー毎日』、「「鬼怒川秘宝殿」最後の一日を徹底ルポ! 絶滅寸前「大人の遊艶地」」(菊地香記者)
  • 2015年2月20日号『週刊ポスト』、「最新の映画技術が応用されていた秘宝館の芸術性再考論」(末並俊司記者)
  • 2015年3月21日号『北海道新聞』朝刊、「記者日記」「寂しい最後」(佐藤大吾記者)
  • 2015年5月10日号『朝日新聞』北海道版、「時代と共に歩んだ秘宝館 定山渓温泉(札幌市)」(関根和弘記者)
  • 2017年8月13日号『サンデー毎日』、「驚異のV字回復!グラビア連動 現地ルポ 熱海秘宝館の秘密」(菊地香記者)
  • 2017年10月号『性の健康』(Vol.16 No.3)、「シリーズ日本人と性 第7回 生き延びる秘宝館」(サンデー毎日編集部 菊池香記者)

寄稿

  • 2014年5月30日、妙木忍、「失われゆく文化遺産、秘宝館」「連載 ニューエイジ登場 396」、『週刊読書人』
  • 2014年6月16日夕刊、妙木忍、「消えゆく秘宝館 時代を映した鏡」、『朝日新聞』
  • 2015年2月号、妙木忍、「残るはわずか1館 「秘宝館」消滅の危機!」、『新潮45』
  • 2015年3月30日朝刊、妙木忍、「アート万華鏡」「聖/俗 秘宝館の記憶 信仰とユーモアの世界共存」、『北海道新聞』
  • 2015年10月号、妙木忍、「性とユーモア―秘宝館の魅力―」、『オール讀物』(「日本最後の秘宝館」内) この記事のウェブ版はこちら(文藝春秋 本の話WEB)
  • 2017年3月7日発行、妙木忍、「秘宝館研究と北海道」、石森秀三・西山徳明・山村高淑編『観光地域マネジメント寄附講座10周年記念 観光創造学へのチャレンジ』(北海道大学観光学高等研究センター)373-378ページ

連載

  • 2014年10月、妙木忍、「[連載]おとなの遊艶地 秘宝館1」「秘宝館のマリリン・モンロー」『週刊読書人増刊 PONTO』No.1
  • 2015年3月、妙木忍、「[連載]おとなの遊艶地 秘宝館2」「秘宝館にみる職人魂」『週刊読書人増刊 PONTO』No.2
  • 2015年8月、妙木忍、「[連載]おとなの遊艶地 秘宝館3」「秘宝館にみる性信仰と祭り」『週刊読書人増刊 PONTO』No.3
  • 2015年12月、妙木忍、「[連載]おとなの遊艶地 秘宝館4」「秘宝館における医学展示」『週刊読書人増刊 PONTO』No.4

テレビでのコメント

  • 2014年4月21日(月)フジテレビ「とくダネ!」
  • 2014年12月18日(木)フジテレビ「NONFIX エロスの行方・消えゆく”秘宝館”」
  • 2015年2月2日(月)テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」
  • 2015年3月26日(木)テレビ静岡「リアル静岡トークバラエティ『ぶっこみ』」
  • 2016年1月25日(月)BSスカパー!BAZOOKA!!!「世界エロ遺産 秘宝館に行こう」

ラジオでのコメント

  • 2015年1月18日(日)文化放送「キニナル」(テーマ:秘宝館)

対談と講演

  • <対談>2014年6月21日、公開ゼミ@あかはね倉庫(TOYAKOマンガ・アニメフェスタ空き店舗イベント)「”秘宝館”とは何だったのか??〜消えゆく昭和の文化装置から考えるメディアと旅の意味〜」(小野朋子さん、石川美澄さん、小新井涼さん、妙木忍)
  • <対談>2014年11月13日、2014年度公開講座 連続対談「観光創造の最前線」  第4回「“昭和の旅と娯楽”再考~秘宝館からカラオケまで、日本人は何を楽しんできたのか?~」 (山村高淑先生、妙木忍)、北海道大学観光学高等研究センター
  • <講演>2015年2月8日、高知県立桃源郷 新・高知の造形文化展 開催記念講演会 「秘宝館の魅力と秘宝館を愛した人々」、高知県立美術館
  • <講演>2015年5月22日、東京大学大学院・木下直之先生授業「近代日本の性表現」枠内、「性とユーモアー秘宝館の参加型展示とパロディ」、東京大学
  • <講演>2015年7月14日、平成遠友夜学校、「観光と女性ー医学展示と秘宝館ー」、遠友学舎
  • <講演>2017年1月19日、愛媛大学人文学会公開講演会、「日本における性の展示-秘宝館という文化装置-」、愛媛大学

その他関連記事

  • 2015年6月18日、『北海道新聞』夕刊、妙木忍、魚眼図「幻の展覧会」
  • 2015年9月4日、『北海道新聞』夕刊、妙木忍、魚眼図「彫刻と人形」
  • 2015年9月11日、『西日本新聞』朝刊、「春画はいま、何を語る?」(野村大輔記者)
  • 2016年4月15日、『朝日新聞』夕刊・北海道版、「まち歩きのススメ 館編 人間が匂い立つ 北海道秘宝館」(塚田敏信)

〔関連イベント〕

ISBN: 9784787233738
発行日: 2014.03.21
体裁: A5判 205ページ
定価: 本体価格2,000円+税
出版社: 青弓社
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

第1章「秘宝館」とは何か
第2章 秘宝館の誕生
第3章 秘宝館の発達
第4章 秘宝館の変容と新たな魅力の誕生
第5章 遺産としての秘宝館