内容紹介
木彫り熊は北海道の著名な土産品です。大正末期に生まれ、観光ブームに伴って、全道各地で盛んに制作・販売されました。基本的には職人の手彫りで制作されますが、最盛期には分業や工程の一部機械化によって大量生産も行われました。そんな木彫り熊の見所を紹介します。
こんな趣旨の展示を「書香の森」展示コーナーで、2022年3月に開催しました。2年後に展示名と同じ書名の図書が刊行されるなんて、思ってもいませんでした!
著者からのコメント
お土産品としても親しまれてきた木彫り熊を、様々な角度から深彫り(ではなく、深掘り!)する一冊
編者の田村実咲氏は、本学の博物館学研究室で学び、指導教員・佐々木亨教授のもとで修士論文を執筆した若手の木彫り熊研究者です。修士論文の提出後、本学文学部1階の「書香の森」にて企画展示「開講、木彫り熊概論」(2022年3月)を実現させ、さらにそれが出版社の目にとまって今回の書籍出版へとつながりました。
本書では、木彫り熊の歴史や文化に迫る田村実咲氏の論考に加えて、製作者、販売者、コレクター、アーティスト、研究者など、幅広い方たちの寄稿、インタビューも充実しています。田村氏による、粘り強い調査やインタビューが、本書の魅力の一つであると思います。
また、北海道ゆかりの木彫り熊から始まった話が、次第にひろがっていくところも、この本の読みどころです。木彫り熊とコミュニティ。木彫り熊と文化人類学。長野県の松本で生まれた木彫り熊。ブラジルにわたった木彫り熊。玩具文化と木彫り熊。ミュージアムのコレクションと木彫り熊…。議論はどんどん、膨らんでいきます(ちなみに、この著者メッセージ欄の執筆を仰せつかった私・今村は、絵画に登場するクマ・ヒグマの表現から、北海道という場を再考しています)。加えて、田村氏だけでなく、本学博物館学研究室の大学院生がお二人、共著者として参加している点もこの本の特色です。
これまで、本学文学部の教員が手がけた書籍を紹介してきた「書香の森」。その場所で行われたささやかな展示をきっかけに、今回、新しい本が生まれました。地面に撒かれた種が芽を出し、また別の木へと成長していくように、この本の「森」も、新しい研究者たちの研究成果によってますます育っていくようです。
(共著者の一人として、今村信隆)