内容紹介
男が女役を演じる「おんながた」、これを中国語では「男旦(ナンタン)」と呼ぶ。中国の伝統劇、といっても18世紀末から19世紀にかけて萌芽した、比較的歴史の浅い京劇は、かつては男ばかりで演じられた。20世紀に入ると、女優の登場、劇評の発達、近代劇の流入など、さまざまな変化が京劇界に影響を与える。本書は、「男旦」の興亡史を手がかりに、20世紀の京劇がたどった現代化の道のりを解き明かそうとしたものである。
著者からのコメント
能に歌舞伎にタカラヅカ、男が女になったり、女が男になったりする演劇が大好きです。大学生の頃、中国にもそういう演劇があると知り、京劇に興味をもちました。ところがこんにち、京劇の女役は女優が演じることが一般的です。「京劇のおんながたはどこへ消えたの?」このような素朴な疑問を抱いたことが、本書の出発点でした。
20世紀の京劇は、新旧の時代の過渡期にあり、女優・劇評・近代劇・舞台装置など、新たに出現したさまざまな事物を吸収し、形を変えていきます。その中で、俳優の身体と性別の問題がどのように扱われたのか、当時の新聞・雑誌の記事をひろい集め、京劇を取り巻くメディアや政治など、なるべく広い視点から考えることを試みました。
かつて京劇で卒業論文をまとめようと四苦八苦していた自分に宛てて書くような気持ちで、博士論文を書き直したのがこの本です。卒業論文を書きあぐねている方に読んでいただけると嬉しいです。