内容紹介
現代の中国における宗教変動と、アジア各国の宗教の動き、特にキリスト教の躍動を描き出す。東アジアの近現代においては政治が宗教を統制してきたが、近年では社会内部のダイナミックな宗教運動とトランスナショナルな宗教がもたらすインパクトによって、政治的統制や文化的圧力の網の目をくぐり抜けて宗教的空間が存在することが確認される。これらの宗教の制度分析を軸に、階層分化や社会的排除などポスト・グローバル時代の社会問題に宗教はどのように応えるのかという問題意識をもって、東アジアの宗教動態を変動の局面で把握する。
著者からのコメント
本書が現代中国の宗教変動をタイトルにしたのは、中国研究者や留学生の論文を多く収録していることもありますが、東アジアの社会変動や文化変容に現代中国が今後大きな影響力を持っていくだろうと考えられるからです。しかしながら、中国において宗教管理の政策と調査研究の環境は他の東アジア諸国と大いに異なり、適切な研究のリソースやアプローチがなければ調査も知見の公表も難しいところがあります。
また、タイトルにアジアのキリスト教をつけたのは、研究対象にキリスト教を選択した研究者が多かったことがあります。これは私自身が研究室において日本・韓国・中国・タイ・モンゴルの比較調査を企画し、同じ調査票を用いて複数の教会で調査票調査を実施した結果でもあります。キリスト教はプロテスタント教会だけでも多数の教派に分かれており、国や地域ごとにキリスト教の文化や教会のあり方も独自性をもって形作られてきたために、本調査のように同じ教派に固定せずに調査可能な教会だけの比較では不十分です。しかしながら、複数国での総合的な社会調査に宗教項目がそれほど入れられていない現状では、この調査研究も資料的価値はあろうかと考えております。そして、各国のキリスト教ごとに個別論文があるので、アジアのキリスト教会の動向を一部報告できるものと考えます。
そして、本書の特徴は、中国の現代宗教、アジアのキリスト教の動態といった調査研究に加えて、宗教文化や教団宗教のあり方を規定する宗教政策と、宗教の社会的機能に関わる当該国の社会保障や福祉レジームとの関連をマクロ的な視点で捉えた上で、個別のフィールドや対象に迫っていくという社会学的なアプローチを取ろうとしているところにあります。この発想自体は、2年前に私も刊行に加わった、櫻井義秀・外川昌彦・矢野秀武編、2015、『アジアの社会参加仏教-政教関係の視座から』北海道大学出版会、で意識したものであります。ただし、本書全体でこのアプローチは緩い大枠に相当するもので、個別論文はそれぞれの視点や方法論で書かれております。
学会の動向や社会的ニーズをもくみながら、資料的価値のある調査研究を多くの人々に届けたいというのが編者・執筆者たちの思いではありますが、分析や考察において甘さや検討すべき点も多々残されていると思います。是非ともご叱正のほどお願い申し上げます。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ