2017.03.25

現代中国の宗教変動とアジアキリスト

著者名:
櫻井義秀(編著)、伍 嘉誠(分担執筆)
文学院・文学研究院教員:
伍 嘉誠 ご かせい 教員ページ
櫻井 義秀 さくらい よしひで 教員ページ

内容紹介

現代の中国における宗教変動と、アジア各国の宗教の動き、特にキリスト教の躍動を描き出す。東アジアの近現代においては政治が宗教を統制してきたが、近年では社会内部のダイナミックな宗教運動とトランスナショナルな宗教がもたらすインパクトによって、政治的統制や文化的圧力の網の目をくぐり抜けて宗教的空間が存在することが確認される。これらの宗教の制度分析を軸に、階層分化や社会的排除などポスト・グローバル時代の社会問題に宗教はどのように応えるのかという問題意識をもって、東アジアの宗教動態を変動の局面で把握する。

著者からのコメント

 本書が現代中国の宗教変動をタイトルにしたのは、中国研究者や留学生の論文を多く収録していることもありますが、東アジアの社会変動や文化変容に現代中国が今後大きな影響力を持っていくだろうと考えられるからです。しかしながら、中国において宗教管理の政策と調査研究の環境は他の東アジア諸国と大いに異なり、適切な研究のリソースやアプローチがなければ調査も知見の公表も難しいところがあります。
 
 また、タイトルにアジアのキリスト教をつけたのは、研究対象にキリスト教を選択した研究者が多かったことがあります。これは私自身が研究室において日本・韓国・中国・タイ・モンゴルの比較調査を企画し、同じ調査票を用いて複数の教会で調査票調査を実施した結果でもあります。キリスト教はプロテスタント教会だけでも多数の教派に分かれており、国や地域ごとにキリスト教の文化や教会のあり方も独自性をもって形作られてきたために、本調査のように同じ教派に固定せずに調査可能な教会だけの比較では不十分です。しかしながら、複数国での総合的な社会調査に宗教項目がそれほど入れられていない現状では、この調査研究も資料的価値はあろうかと考えております。そして、各国のキリスト教ごとに個別論文があるので、アジアのキリスト教会の動向を一部報告できるものと考えます。
 
 そして、本書の特徴は、中国の現代宗教、アジアのキリスト教の動態といった調査研究に加えて、宗教文化や教団宗教のあり方を規定する宗教政策と、宗教の社会的機能に関わる当該国の社会保障や福祉レジームとの関連をマクロ的な視点で捉えた上で、個別のフィールドや対象に迫っていくという社会学的なアプローチを取ろうとしているところにあります。この発想自体は、2年前に私も刊行に加わった、櫻井義秀・外川昌彦・矢野秀武編、2015、『アジアの社会参加仏教-政教関係の視座から』北海道大学出版会、で意識したものであります。ただし、本書全体でこのアプローチは緩い大枠に相当するもので、個別論文はそれぞれの視点や方法論で書かれております。
 
 学会の動向や社会的ニーズをもくみながら、資料的価値のある調査研究を多くの人々に届けたいというのが編者・執筆者たちの思いではありますが、分析や考察において甘さや検討すべき点も多々残されていると思います。是非ともご叱正のほどお願い申し上げます。

ISBN: 9784832968325
発行日: 2017.03.25
体裁: A5判 453ページ
定価: 本体価格7,500円+税
出版社: 北海道大学出版会
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

第Ⅰ部 東アジアの社会と宗教
第一章 現代東アジアの宗教
第二章 東アジアの福祉と家族
第三章 中国における計量的宗教社会学とその課題

第Ⅱ部 アジアのキリスト教
第四章 アジアのキリスト教会
第五章 本国と日本における韓国カトリック教会と信者たち
第六章 社会参加する中国の家庭教会
第七章 朝鮮族キリスト教の実態について
第八章 台湾の政教関係にとっての台湾語教会という存在
第九章 香港におけるキリスト教と社会福祉
第十章 ポスト社会主義時代のモンゴルにおけるキリスト教
第十一章 現代タイにおけるカトリック・キリスト教会の実態と社会活動

第Ⅲ部 中国の宗教復興
第十二章 中国にみる多神教世界の社会的ダイナミズムと可能性
第十三章 明暗を分けたチベット仏教の高僧─中国共産党の宗教政策と権利擁護の主張
第十四章 雲南保山回族にとっての国家
第十五章 愛国的宗教指導者の悲哀
第十六章 五台山の寺院復興と聖地観光
第十七章 西安市の仏教寺院と信徒活動
第十八章 北京市の道教と道観
第十九章 雲南省・江蘇省・甘粛省における宗教団体の社会活動
第二十章 インド、ラダックにおける仏教ナショナリズムの始まり