内容紹介
AIが過去すら編集してしまう時代に、なぜ歴史を「自分の目」で読むのか――
モンゴル帝国の隊商路で、鎌倉武士の手紙のなかで、大正期の都市計画の図面で……史料に向き合い、過去と現在を架橋する歴史家たちの視点を味方につければ、今この瞬間のニュースも、足元の風景も、まったく違って見えてくる。
あなたの世界を拡張し、豊かにする「ジンブン学」の実践、シリーズ第3弾!
著者からのコメント
私のポスドク時代からお付き合いのあるジブンジンブン代表の原田央さんのお誘いで去年させていただいた鼎談を基にした本が出ました。佐藤雄基さん、南藤優明さんとの鼎談は実に興味深く、自分としては何かを発信する以上に彼ら2人の対話に感じ入るところが多かったわけですが――実際、中身の分量を見てもお2人のパートが多いです――自分の人文学者としての来歴であるとか、鼎談を終えての振り返りであるとか、そういった部分も収録されている書籍となっています。
出来上がった本を手に取り、あらためて1年前の鼎談を振り返ってみて、私自身それなりに時事ネタにも言及したという印象があります。ご関心あればぜひ本を手に取っていただければと思うのですが、「ライプツィヒの壁」の話はいまドイツを揺るがしている「ドイツのための選択肢」(AfD)の台頭を考えるうえで――私自身が当時そのことを意識していたわけでは全くありませんでしたが――興味深く思います。もちろんこの事例は私の周りの限られた範囲で起こったことではありましたが、極右台頭の文脈の一部ではあったと思うことができます。
そして当時の話題と言えばやはりイランの戦争です。その帰結は今に至っても見通すことはできないわけですが、少なくとも当時の私の見通しは間違っていたと思います。イランでデモが暴徒化し、イスラエルとのミサイルの応酬が始まり、アメリカも派兵・攻撃を行ったこの戦争について、私は最高指導者が斃れた段階で、イランの現政権は打倒されると本気で思いました。私のイラン人の友人たちもその多くが現在は国を離れていて、彼らが発する声も基本的には私と同じ方向を向いていたとは思います。しかし、現政権は私が思っていたよりも強固であり、アメリカには往時のように(不法な)軍事オペレーションを遂行しきるような力はありませんでした――だからこそ、現大統領のような人物が出てきたとも言えるでしょうか…。
私がこの本で主張した、「真実」を多面的に見ることの重要性はむしろこの事実から補強されうると思いますが、「真実」を多面と見たうえで、どのパートに重きを置いて「真実」を理解するのかという部分に対しては、別の能力が必要であると思わされた次第です。
またこの本の刊行が旧東ドイツ圏での極右勢力の顕在期に重なったということで、去年のライプツィヒ滞在のことをもう1つ書いておきたいと思います。ライプツィヒでの私のアパートの大家さんは、当時からゴリゴリのAfD支持者でした。彼は今は年金受給者ですが、かつては長く銀行員を務めた方でした。契約に関わることは絶対に英語では受け付けないという頑なな姿勢がありましたが、いったん英語を喋りはじめるととても上手でした。他言語へのアクセスも含めて彼は知的で、こちらとの対話に関してはオープンですらあったと思います。
ただ彼は(東)ドイツはEUから離脱すべきだとすら言っていました。EUは(東)ドイツから搾取するばかりであると。そして移民問題です。「ライプツィヒの壁」に象徴的に現れているように、年金受給者たちが穏やかに暮らしていた街区に余所者が入り込み、ルールを守らずに騒いでいることに関して、彼が表明するのは不満以上に恐怖でした。拭えぬ過去の敗北、現在も続く経済不況、そして余所者がもたらすであろう未来、この種の時間の重なりが、旧東ドイツ圏において極右に一定の空間を与えています。この本を手にして思い出すのは、あの時の鼎談とともに、あの大家さんの顔でもあるのです。
外部リンク
〔出版社〕ジブンジンブンの紹介ページ
