内容紹介
15世紀末から18世紀にかけてのユーラシア大陸とインド洋にまたがる広域アジアにおいて、人びとがダイナミックに動き、交流したさまを、一次資料に基づいて跡付ける。個人の生涯にわたる旅、集団の移動・移住、コミュニティの形成と発展を、主にアジアの人びとの視点から描き出す。
著者からのコメント
「ヨーロッパ」と「アジア」が邂逅する時代(「大航海時代」に相当し、これを本書では「近世」と措定しています)、「アジア」という地域内において、「アジア」の人びともまた、「国境」や「国籍」に関係なく各地に移動・移住し、みずからの地域社会を越えて、他の地域とも活発かつ密接に結びついていたことを、9名のアジア史(東洋史)の研究者がヴィヴィッドに描き出します。当時の人びとは、たとえ政治状況や文化的背景の相違があろうとも、海や陸の「道」を通って、頻繁に往来し、広範なネットワークをつくりあげていました。
動乱期の中国・福建出身のひとりの士大夫と彼の前半生の旅、バタヴィア(現ジャカルタ)に渡来したインド・ペルシア系の「モール人」たち、南アジアでイギリス東インド会社と足並みをそろえて活動したアルメニア人たち、ペルシア湾からアラビア海を経てデカン地方にわたったトルコ系の王朝創設者、宗派・民族を問わず多様な人びとによって形成された北インドの国際商業港市スーラト、北インドやアフガニスタンなど多方面への旅に費やしたモグールの一王子の生涯、中央アジアでの宗派の相違に起因する政治権力による住民の強制移住、交易のためシャムにわたったイラン人たち、そしてバグダードからペルシア湾、北インド、アフガニスタン、中央アジア、イランを旅したオスマン朝の海軍提督。
本書は、アジア全域を対象に、海域世界や陸域世界、あるいはその両者を結ぶ様々な人の移動に焦点をあてた論文集です。
このような本書が生まれた背景には、4年間にわたる共同研究プロジェクトがあります。メンバーは、代表者の守川のほか、東京大学の島田竜登氏、筑波大学の木村暁氏、長崎県立大学の長島弘氏、京都大学・龍谷大学の間野英二氏です。研究プロジェクトでは、最初は戸惑いながらも、現地を見たり、研究報告をしたり、何よりも喧々諤々の議論を通して、研究を進めていきました。なかでも、島田竜登氏の鋭い洞察力や深い見識によって、この共同研究プロジェクトはよりいっそうエキサイティングなものになりました。島田氏の「近世論」や「アジア史論」に大きな刺激と影響を受けて、当初の対象であった「シーア派ネットワーク」から、本書のテーマである「近世アジアの移動と交流」という、より発展性のあるテーマが見つかったのでした。そして、重松伸司氏(追手門学院大学)、三木聰氏(北海道大学)、真下裕之氏(神戸大学)、今松泰氏(京都大学)という心強い助っ人の方々の助力を得ることで、最終的に本書が結実したのです。研究者たちの個々の「知見」が化学反応を起こし、ひとつの実になるということは、まさしく共同研究のだいご味です。
アジアをグローバルに捉え、アジア全域を広くカバーした本書により、新たな「近世アジア史像」が示されると同時に、本書が、一次史料を重視する文献史学の新たな指標となることを期待しています。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ