2010.03.22

ロマンス語再帰代名詞の研究

クリティックとしての統語的特性
著者名:
藤田 健
文学院・文学研究院教員:
藤田 健 ふじた たけし 教員ページ

内容紹介

本書は著者の十数年にわたる研究を集成したものである。本書では,現在の統語論において中心的な位置を占めている言語理論の一つである生成文法の枠組を用いて,ロマンス諸語に属するフランス語・スペイン語・のイタリア語の再帰代名詞クリティックに関する言語事情を対照的に分析した。  再帰代名詞クリティックの機能のなかで統語論において分析されるべきものとして再帰用法、受動用法、非人称用法の三つを取り上げた。非対格用法を分析対象としないのは、この機能が統語論ではなく語嚢意味論のレベルで分析すべきものであるという理由による。  再帰用法については、特に重要な現象とし七使役構文における分布と複合時制における過去分詞の一致現象についてフランス語を中心に論じた。受動用法においては、スペイン語における名詞句の格標示の問題、フランス語における時制上の制約の問題並びにイタリア語を中心とした複合時制における過去分詞の一敦現象について論じた。非人称用法においては、イタリア語を中心にその続語的分布と複合時制における過去分詞の一敦現象について論じた。これらの議論を通じ、3言語において再帰代名詞クリティックが統語論上どのように特徴づけられるかを議論した。  本書では,ロマンス語における再帰代名詞クリティックという統語論において重要な位置を占める現象を,新たな言語事実を提示すると同時に,従来の研究にはない独自の視点を展開した。この研究成果は再帰代名詞にとどまらず代名詞クリティック全体につながるものであり,今後のロマンス語統語論研究の発展に大いに貢献するものである。

 
(北海道大学大学院文学研究科研究叢書 14)

著者からのコメント

 ロマンス語という名称は一般の方にはあまりなじみのないものだと思いますが、ラテン語の口語体(俗ラテン語)から派生した言語グループを指します。この本は、ロマンス語のうちフランス語・スペイン語・イタリア語を対象として、再帰代名詞(日本語の「自分(自身)」に相当するもの)について私が今まで研究してきた成果をまとめたものです。
 このテーマは20年前に卒業論文で扱って以来、私の中でかなり重要な位置を占めるものです。もともと私はフランス語の研究からスタートしたのですが、近い関係にあるスペイン語・イタリア語についても見てみると、兄弟といってもいいかなり近い関係にありながら、再帰代名詞の使い方が違っていることに気付きます。その違いはどこから来るのだろうかという素朴な疑問がこの研究の原動力になっています。それぞれの言語に簡単には解決できない根の深い問題が潜んでいますが、ロマンス語の再帰代名詞もその一例かと思います。この本では再帰代名詞についてのいろいろな現象を取り扱っているので、専門的な議論が理解できなくてもこの代名詞のもつ面白さがある程度わかっていただけるのではないかと思います。
 分析のために主に用いているのは、生成文法という言語学の理論です。かなり専門的な知識を必要とする理論ですからなかなかとっつきにくいかもしれませんが、常識では見通せない新たな視点で言語の面白さを実感するには、大変魅力的な理論ではないかと思います。ロマンス語生成文法について日本語で書かれた本はあまりありませんから、生成文法を一通り勉強した方には、日本語や英語以外の言語についての分析を日本語で気軽に読める本として手にとっていただければ大変嬉しく思います。

ISBN: 9784832967250
発行日: 2010.03.22
体裁: A5判 254ページ
定価: 本体価格7,500円+税
出版社: 北海道大学出版会
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

まえがき
第1章 再帰代名詞クリティックの概観
第2章 再帰用法の再帰代名詞クリティック
第3章 受動用法の再帰代名詞クリティック
第4章 非人称用法の再帰代名詞クリティック
参考文献
あとがき