内容紹介
文学の根源的な問題とは何か。そんな大それたことを、高校生でも分かるよう東京大学の国語入試問題を使って議論しています。命とは、死とは、罪とは……? どれも、自分を恥じずに正々堂々生きて行くには素通りできない問いです。多くの作家や詩人も悩んできました。もしも高校生の皆さんが、それに気づいていないなら一大事。本書を開いて下さい。既に気づいていて苦悶中なら、もっと大変。この本が何かのヒントになりますように。
著者からのコメント
1985年3月、ダブりの高三生だった私は、慣れない鉄道を乗り継いで試験場に向かいました。前日宿泊した目黒雅叙園の弁当と参考書で鞄はずっしり重いです。そんな田舎者が目指したのは11号館という建物。たどり着いてみると、中央には半円形の空間があり、それを囲んだ曲線の通路がおしゃれすぎて圧倒されます。教室では、東京の予備校出身者たちが余裕の談笑です。試験開始の合図がいつあったのかよく分からないほどの緊張の中、私は国語の問題を解き始めました。
一問目をなんとかこなし、やってきたのが第二問、そこには二編の短い詩が書かれていました。初めて読む詩です。作者の名前も分かりません。でも、不思議といい感じなのです。読んでいて、すごく分かる、という感じ――上の雪/さむかろな。/つめたい月がさしていて。/下の雪/重かろな。/何百人ものせていて。/中の雪/さみしかろな。/空も地面(じべた)もみえないで。
自分が思ったことを200字で書け、という設問です。私は書き始めました――よく覚えています――「私が受かれば誰かが落ちる。……」。そしてお気に入りの宮沢賢治の言葉を引用したところで升目が埋まりました。それがどんな言葉かはナイショです。でも、上の詩の詳しい読み解きは本書に書いておきました。
外部リンク
〔出版社〕朝日新聞出版の紹介ページ