内容紹介
仕官の道から田園に帰り、隠逸生活をうたった陶淵明。「古今隠逸詩人の宗なり」と評されたその人物、思想、詩と後世の評価について、楊朱の影響、湛方生および江淹との相違、顔延之、鍾嶸、蕭統・蕭綱兄弟による評価など多様な観点から分析する。
著者からのコメント
陶淵明は、およそ唐以前の詩人として、日本と中国両国では最も知られている詩人だといえましょう。華麗な詩風が流行っていた六朝期において、素朴な表現を用いて田園生活をうたう詩を多く綴りました。そのため、六朝期においても、中流詩人だとみなされていたにもかかわらず、陶淵明は、詩の世界で独自の隠逸空間を構築したことによって、「古今隠逸詩人の宗なり」(南朝梁・鍾嶸『詩品』「中品」)という評価を得られました。さらに、唐代から宋代にかけて、人格、思想、そして詩の芸術性など各方面からの再評価によって、超俗的な詩人として広く思慕されるようになりました。ただ、筆者が陶淵明に興味を持っているのは、彼の超俗的な一面というよりも、彼の人間的な一面、つまり彼が隠逸の道を歩んでいた際に持っていた物質的・精神的な悩みおよびその解決方法です。仕官と隠逸の選択に悩みを持つことは、陶淵明に限らず、多くの詩人が共通に持っていた課題です。陶淵明は、彼独自の解決方法を、独自性の表現によって詩として残ったからこそ、同様な悩みを抱く人から共感を得ると同時に、憧れられる対象となると思います。本書は、陶淵明の独自性のある解決方法の思想的根拠、隠逸風潮が流行っていた六朝期における彼の隠逸詩人としての気質の特殊性、さらに六朝期の貴族文壇における陶淵明の位置付けについて論じています。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ
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