内容紹介
近世の地中海はムスリム(イスラーム教徒)・キリスト教徒を問わず、様々な「海賊」が跋扈する舞台であった。ムスリム「海賊」がキリスト教徒を掠奪したことに比べて、キリスト教徒「海賊」がムスリムを襲った事実はあまり知られていない。本書では、キリスト教徒「海賊」に攫われたムスリム捕虜の回想録である『冒険譚』を取り上げて、そこに描かれた虜囚の世界を明らかにする。
著者からのコメント
ムスリム捕虜の『冒険譚』をめくり始めたのは2020年の春頃、ちょうどトルコ留学から帰国しコロナ禍が本格化した時期でした。3年間の長い留学生活を経てほぼ浦島太郎状態になったところに一人暮らしのステイホームが重なって、帰国前は予想しなかった鬱屈さを抱えていたためか、異郷に捕虜として囚われの身になった『冒険譚』の筆者が語る心境に、妙に共感できるような気がしたのです。本書を書きあげた時には、帰国以来長くしまっていた自分の感情がようやく昇華されることになりました。
さて、わたしが今取り組んでいるテーマの一つは、そのような捕虜や掠奪者である「海賊」をめぐる前近代の海上秩序です。主にイスラーム王朝であるオスマン朝とヨーロッパ諸国間における取り決めや対応のあり方を研究していますが、本書は被害者である捕虜自身に注目し、その語りを明らかにすることで、国家間で形成された海上秩序を相対化することにつながることでしょう。
外部リンク
〔出版社〕風響社の紹介ページ