2023.05.15

信仰か、マインドコントロール

カルト論の構図
著者名:
櫻井 義秀 著
文学院・文学研究院教員:
櫻井 義秀 さくらい よしひで 教員ページ

内容紹介

直近30年間のメディアの言説や裁判記録などの分析を通じて、カルト問題を社会問題として考えるための基礎的理論を提示する。統一教会やエホバの証人以外にもカルト視される団体があった。

著者からのコメント

二〇二二年七月八日の安倍元首相殺害事件から二ヶ月余りで、拙共著『統一教会-韓日祝福と日本宣教の戦略』(二〇一〇年初刷、二〇一二年三刷)と拙著『カルト問題と公共性-裁判・メディア・宗教研究はどう論じたか』(二〇一四年初刷)の在庫が北海道大学出版会からなくなった。前著には事件に対する考察を加えて四刷を刊行したが、後著は増刷できないので品切れになった。

しかし、筆者を取材する新聞記者の中にはネットの古書店で書籍を求め、事前に問題を整理してから取材に臨む人もいた。なかには、統一教会信者の入信・回心のプロセスや資金調達活動の組織戦略に迫り、その社会問題性を描き出すために、統一教会問題をカルト問題として一般化したうえで人権や公共の福祉という観点から批判できないかと記事の構想を語る人もいた。こうした取材を受けるたびに、旧著の『カルト問題と公共性』に目を通してもらう必要性を痛感した。

とりわけ、文部科学省における統一教会に対する質問権の行使や解散命令の請求といった行政的対応と、法人による不当寄附勧誘防止法の制定が論議される際、宗教活動やカルト的活動の規制には、宗教と国家にかかわる広範な議論が蓄積されていることを念頭においてほしかった。実際、二ヶ月あまりの短期日のうちに、与野党で統一教会に対する強制的処分と規制の法案が検討され、会期末に合わせて質問権の行使と法人による不当寄附勧誘防止法の制定、および宗教的虐待防止のガイドラインが厚生労働省から出されたのである。

さて、法人による不当寄附勧誘防止法の制定後、統一教会の金銭的被害や精神的被害の救済や二世信者支援などが緒につく前に、二〇二三年の年明けからメディアは統一教会報道を急速にクールダウンさせた。これまでの洪水のような統一教会情報を整理し、カルト問題とは結局のところどういう社会問題なのかを整理する役割が研究者に託された。

年末に別の本(櫻井義秀・猪瀬優理編『創価学会-政治宗教の成功と隘路』二〇二三年四月刊行)で法藏館と打ち合わせを行った際に、『カルト問題と公共性』の再刊に向けた私の問題意識などを伝えたところ、法藏館文庫のラインナップに加えてもらえる可能性が出てきた。そこで、北海道大学出版会と法藏館との間で版権の協議をしてもらい、私が『カルト問題と公共性』からオウム真理教に関する論考の二章と宗教社会学研究の一章の計三章を割愛して、再版に寄せたまえがきとあとがきを増補することで新しい書籍を刊行する計画ができあがった。

私は北海道大学出版会の理事長を長年務め、学術書の刊行や重版の難しさを痛感してきた。再販制のもとでは、八年前に刊行した本を重版する場合でも原則的には同じ体裁と価格を維持しなければならない。紙代他の原材料価格や諸経費が上がっているのに同じ価格で少部数を印刷すれば赤字になり、さりとて増刷部数を大幅に増やして薄い粗利を部数で回収するには大型商業出版社並みの販売能力が必要である。北海道大学出版会としては学術出版の刊行という当初の目的を果たしたので、あとは宗教系書籍の専門店として評価の高い法藏館に学術コンテンツを委ねる判断をした。文庫の体裁で再版できることは願ってもないことである。

ISBN: 9784831826473
発行日: 2023.05.15
体裁: 文庫版・384ページ
定価: 本体価格1,100円+税
出版社: 法蔵館
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

第I部 カルト論の構図

第一章 カルト論の射程
第二章 カルト問題におけるフレーミングとナラティブ
第三章 カルトと宗教のあいだ

第II部 マインドコントロール論争と公共性

第四章 マスメディアによるカルト、マインドコントロール概念の構築
第五章 「宗教被害」と人権・自己決定
第六章 強制的説得と不法行為責任
第七章 カルト問題と公共性