2023.3.31

新派映画の系譜学

クロスメディアとしての<新派>
著者名:
上田学・小川佐和子(編著、第5章、終章)
分担執筆: 田村容子(第11章)
文学院・文学研究院教員:
小川 佐和子 おがわ さわこ 教員ページ
田村 容子 たむら ようこ 教員ページ

内容紹介

新派とは、もともと旧派(歌舞伎)に対抗する新たな演劇として明治時代に興り、大正から昭和にかけて隆盛した「新派劇」のことを指します。そこから題材を得た「新派映画」は、大正時代に日本の津々浦々で上映されました。

新派映画は、家父長制の犠牲となるヒロインの受苦を描くという類型的なメロドラマのイメージが強いです。しかしそればかりでなく、じつは喜劇や翻案劇など多様な試みを実践しながら、大衆の心性と共鳴し人気を得ていきました。本書では、映画史的には周縁とされてきた新派映画の魅力を、演劇・文学・音楽の観点からも検討し、〈新派〉的な感性の広がりを再発見していきます。

著者からのコメント

釣り合わぬが不縁のもと、義理を貫くか情に流されるか翻弄される男女の色恋、血の繋がらない生さぬ仲の親子の葛藤――新派はこうした主題を繰り返し描くことで大衆の心性を反映してきました。女形俳優が演じる新派映画のヒロインは、無数の観客の紅涙を絞らせてきたのです。
それゆえに「お涙頂戴もの」とも揶揄されてきた新派映画ですが、ハンカチを握って物語に没入し、この辛く厳しい現実を生き延びようとするささやかな日常の娯楽がどれほどわたしたちにとってなくてはならないものか。昨シーズンに流行した恋愛ドラマ『silent』の爆発的な流行を見ても、容易に想像できるかと思います。
泉鏡花に代表されるような花柳界が舞台の物語もあれば、西欧文芸の翻案劇、喜劇、探偵劇まで新派の射程はじつに幅広いです。ウェットな夜の顔と、陽気な昼の顔を持つ新派。その多様な表情をひもといていただけるとうれしいです。
わたしは、これに続く研究として川口松太郎によるメロドラマと夜の世界の新派を探求していきたいと考えています。

 

ISBN: 9784864051750
発行日: 2023.3.31
体裁: A5判・464ページ
定価: 本体価格4,800円+税
出版社: 森話社
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

序章 なぜ映画から「新派」を考えるのか その多様性をめぐって[上田学]

 

Ⅰ新派と映画の歴史的交錯
第1章 新派から映画へ その前提として[児玉竜一]
第2章 日活向島再考 その歴史的意義について[上田学]
第3章 菊池幽芳原作『毒草』にみる日本映画の革新と成熟 井上正夫の連鎖劇と向島撮影所の新派映画[谷口紀枝]

 

Ⅱ新派的な情動とメロドラマ
第4章 新派的なるもの ある考察[斉藤綾子]
第5章 新派的ヒロインの因果 新派映画と翻案にみる義理と情の葛藤構造[小川佐和子]
第6章 「メロドラマ」映画前史 日本におけるメロドラマ概念の伝来、受容、固有化[河野真理江]
第7章 『不如帰』とその時代 その歴史的意義について[スザンネ・シェアマン]

 

Ⅲクロスメディアと新派的な感性
第8章 新派と新国劇の交差するところ 中里介山『大菩薩峠』の二つの顔[紅野謙介]
第9章 『不如帰』の舞台化における音楽演出[土田牧子]
第10章 ヒロインの死を悼むのは誰か 樋口一葉作『にごりえ』とその脚色[中村ともえ]
第11章 「椿姫」を演じた男たち 中国演劇における「新派的」想像力の行方[田村容子]

 

Ⅳ 新派の水脈・過去と現在
第12章 中野實の「喜劇」と「青春」 もう一つの新派[神山彰]
第13章 新派のアクチュアリティと探偵劇の系譜 明治期『都新聞』の「探偵実話」から江戸川乱歩と横溝正史の劇化に及ぶ[後藤隆基]

 

終章 遍在する<新派>[小川佐和子]

 

資料 新派映画一覧 明治三二(一八九九)―大正一二(一九二三)年[谷口紀枝](作成協力=上田学・小川佐和子)

 

あとがき