内容紹介
芸術作品の前で私たちは、誰かと、何かを語り合うことがあります。作品の意味や解釈について、よしあしや好き嫌いについて、そしてときには作品とはあまり関係のない事柄について…。こうした談義には、どのような意義があるのでしょうか。現代のミュージアムでもしばしば議論されるこの問題のヒントを、本書では、17世紀の美術愛好家たちから学びます。絵の前で、批評の手前で繰り広げられる、声の美術批評史の試みです。
著者からのコメント
17世紀フランスの美術愛好家たちの著作は、一読したところ、非常に平易です。後の時代の批評家や美学者たちの著述に比べると、素朴な、あるいはあえて言えば「幼い」議論のように思われてしまうかもしれません。
しかしこれらの議論の素朴さは、それ自体として意味のある素朴さだったのではないか、という疑問がこの研究の出発点になっています。絵の前で、仲間同士で、紳士的に語り合うことが理想であった時代の文章です。したがって、学問的な体系性や精緻さ以上に、語り口が紳士的な魅力を備えていること、内容が難なく理解できること、展開が機知に富んでいることが重視されたとしても、何らおかしなことではありません。
現代の常識に照らしてみれば劣った、乗り越えられるべき議論だと思えたとしても、そこには何かしら、時代の要請に即した美点が隠れているかもしれない。このことを、本書を執筆しながら、学ぶことができました。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ