内容紹介
ロシアやスラヴといった枠組みではなく、西アジア・地中海世界、中央ユーラシア、スカンディナヴィアなど周辺からの眼差しを映す史料を緻密に読解することによって、前近代ロシア世界を描出する意欲的試み。
著者からのコメント
本書の基になったのは、共同利用・共同研究拠点の企画として2009年10月末に行なわれたシンポジウム「前近代北西ユーラシア歴史空間の再構築:ロシア外部の史料を通じてみた前近代ロシア世界」です。目次からも分かりますように、本書はイスラーム史、スカンディナヴィア史、ビザンツ史、モンゴル帝国史、オスマン史、そしてロシア史という普段顔を合わせることが稀な専門家による協働の結晶です。二つの総論と終章を読みますと、周辺世界との相互作用という視座で、9世紀からつい最近までのロシアの歴史を通観できる仕組みにもなっています。このような作品を可能にした小澤実氏(立教大学)の敏腕に敬服するばかりです。
本書の作成には長い年月を要しました。2009年は、2008年8月のグルジア戦争の余韻がまだ感じられましたが、2016年は、2014年のウクライナ危機がまだ進行しています。ロシアをめぐる国際情勢は、「新冷戦」と説明され、プーチン大統領の「ユーラシア」も何か自己完結的な別世界の構築を目指しているようにも見えます。こうした今だからこそ、ロシアの歴史を周辺地域さらには世界と同じ時空間に位置付ける思考が必要だと思います。地道な史料の読解に基づく本書がそうした必要に対する応答になっていることを期待する次第です。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ