内容紹介
この本では、明治期以降の日本に的を絞り、近代的な「美術鑑賞」と「美術批評」の成立について検討しています。議論を導くキーワードは〈声〉と〈語らい〉です。近代的な鑑賞と批評は、ともに、〈声〉や〈語らい〉を外側へと追いやることで自らの輪郭を定めてきたのではないか。そのような仮定に基づきながら、今日の美術館でもしばしば要請される「お静かに!」をめぐる諸問題を再考し、近代日本美術の淵源を探っていきます。
著者からのコメント
2024年の秋に刊行した前著『「お静かに!」の文化史‐ミュージアムの声と沈黙をめぐって』(文学通信刊)の姉妹編とも言える一冊です。
今回は、前著では扱うことが出来なかった2つの問題に新たに取り組むことを目指しました。
1つは、「鑑賞の歴史」と「批評の歴史」の両方を同時に議論の俎上に載せることです。鑑賞と批評、この両者がまったくの別ものではなく、どこかで通底していると想定する点に、本書の特徴があると考えています。
もう1つ、本書で新たに取り組もうとしたのは、鑑賞史と批評史とが重なる地点から、日本の近代美術自体の成立を眺めてみることです。当初の目論見のすべてが達成できたとは到底思えませんが、それでも、自分なりに答えに近づこうとしたことは事実です。
取り上げたトピックは多岐にわたります。一見したところ、雑多にみえてしまかもしれません。目次や索引を改めて眺めると、我ながら、雑多な気もいたします…。ただ、それらの種々雑多なトピックのあいだを、〈声〉と〈語らい〉というキーワードを握りしめながら進み、探検してみるのは、少なくとも私にとっては愉しい作業でした。この愉しみが、読んでくださる方に少しでも伝わることを、願うばかりです。
外部リンク
〔出版社〕文学通信の紹介ページ