内容紹介
モロッコの古都フェスで16-18世紀に作成されたアラビア語皮紙契約文書に関する共同研究の成果。日本を代表する東洋学の専門図書館である東洋文庫には、モロッコからもたらされた貴重なアラビア語皮紙契約文書が所蔵されている。本書は、2015年に刊行されたPart Iの続編で、今回は7点の契約文書のアラビア語全文とその解説、および関連論文3点を収録している。
著者からのコメント
古い契約文書を使った歴史研究は、日本史や西洋史ではさかんですが、中東や北アフリカのムスリム社会に関しては、一部の時代・地域を除いては、まだまだ未開拓の分野です。もちろんこの社会で契約文書が作られなかったわけではなく、文書館の整備が進んでいなかったり、地方の旧家に眠っている古文書の発掘が進んでいないことが、その大きな理由です。
その点で、東洋文庫が所蔵するモロッコの皮紙契約文書コレクションは、きわめて貴重です。東洋文庫は、東京の駒込にある東洋学の専門図書館で、漢文やアラビア語など様々な言語の書籍を大量に所蔵しています。東洋文庫では、2009年から5人のメンバー(三浦徹・佐藤健太郎・原山隆広・吉村武典・亀谷学)による共同研究を組織して、この皮紙契約文書の分析を進めてきました。文書の多くは不動産取引に関するものですが、その分析からは、女性も含む前近代モロッコの都市住民たちによる資産形成や不動産経営の生々しい実態をうかがい知ることができます。
こうした史料の刊行によって、新たな研究に取り組む人が出てくることを期待しています。