2016.03.15

人口減少社会と寺院

ソーシャル・キャピタルの視座から
著者名:
櫻井義秀・川又俊則 編著
文学院・文学研究院教員:
櫻井 義秀 さくらい よしひで 教員ページ

内容紹介

人口減少社会を迎えた現代、全国コンビニ数を凌駕する仏教寺院が地域や檀家・門徒に果たす役割とは? 主要宗派の宗勢調査、実地調査に基づく多彩な事例報告から展望する。地域の寺院研究の最前線!

著者からのコメント

 本書は読者として仏教学や宗教学の研究者と共に、全国に数多ある寺院の住職や寺族、宗門付設の研究所所員や仏教学科で学ぶ学部生・大学院生、宗門や教務所・宗務所で過疎対策に腐心している教団職員、そして寺院仏教の将来について思いをめぐらせている多くの方々に読んでもらえるように次のような工夫をしてみた。
 
 一つ目は、人口減少社会という問題をわかりやすく、実証的に解説する概論を設けていること(第Ⅰ部)。二つ目に日本の主要な仏教教団である浄土宗・浄土真宗・日蓮宗・曹洞宗に関する宗勢調査や地域の実態調査を含めた詳細な概況報告・事例報告を提供しており、読者は各宗派の比較を含めてさまざまな観点から寺院仏教の状況を分析することが可能である(第Ⅱ部)。天台宗・真言宗他の宗派については二章の宗教専門誌を通じての間接的な言及に留まったことが残念であり、機会が与えられればさらに調査を重ねたいと考えている。
 
 寺院仏教を構成する地方の寺院では、住職・寺族共に特段意識することもなく地域社会の人間関係を豊かにするさまざまな取り組みをしており、地域社会に寺院があること(Being)が地域の人々の安心感やコミュニティの持続感に大きな影響を与えていることが確認された。もちろん、弱体化する家族や地域の連帯感をボランティア活動や傾聴活動によって維持強化するにこしたことはない。しかし、寺院仏教の将来を展望する上で、何かしら特別なことをしないとダメではないかという実践型の寺院(Doing)のみが注目される現況は見直されてしかるべきではないか。このような事例研究に基づく、気づきや考察を盛り込んであることもこの本の特徴である(第Ⅲ部)。
 
 とはいえ、今後、二〇年、三〇年後に寺院を護持してきた昭和一桁世代が亡くなった後、寺院がどのように護持されるかのついては現状維持の展望はまったくない。地方で農林漁業に従事している平均年齢六〇歳を超える人たちがリタイアした後を模索するのと同様に、誰もが納得するわかりやすい方法はないのだろうと思う。不活動宗教法人の解散・合併は宗務行政として取り組むべき課題である。廃寺は、檀家・門徒が全て退出した後に船を下りるような格好のいい形で終わることはないだろう。なるべく多くの人が納得できるような方法をみなで考えていくべき時代である。本書がそのための情報や考える素材を提供できていれば望外の喜びである。

ISBN: 9784831857026
発行日: 2016.03.15
体裁: A5判 425ページ
定価: 本体価格3,000円+税
出版社: 法蔵館
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

第1部 人口減少社会と宗教
 第1章 人口減少社会における心のあり方と宗教の役割
 第2章 過疎と宗教―三〇年をふりかえる
第2部 宗派の現状と課題
 第3章 過疎と寺院―真宗大谷派
 第4章 信頼は醸成されるか―浄土真宗本願寺派
 第5章 住職の兼職と世代間継承―真宗高田派
 第6章 宗勢調査に見る現状と課題―日蓮宗
 第7章 過疎地域における供養と菩提寺―曹洞宗
 第8章 寺院の日常的活動と寺檀関係―浄土宗
第3部 寺と地域社会
 第9章 門徒が維持してきた宗教講―真宗高田派七里講
 第10章 抵抗と断念―地方寺院はなぜ存続をめざすのか
 第11章 廃寺―寺院・門信徒の決断
 第12章 仏婦がつくる地域―ビハーラの可能性
 第13章 坊守がつなぐ地域―寺院は女性で支えられる
 第14章 傾聴する仏教―俗世に福田を見る