内容紹介
「正しい戦争はあるのか?」、これは戦争と平和を巡る倫理の本質的な問いである。本書は、戦争や暴力に関わる倫理的諸問題を紹介し、批判的に検討することを目的としている。本書の構成は、倫理学的思考の基礎から戦争倫理学への橋渡し(第1章)、正戦論を中心とした戦争倫理学の論点の概観(第2~4章)、戦争に関わる具体的な問題の検討(第5章)、そして安保法制についての提言(補論)となっている。
著者からのコメント
「戦争は悪い」ということは誰もが知っています。「そんなことは分かりきっている」と思う人が多いと思います。
では、「なぜ戦争は悪い」のでしょうか。ひょっとしたら「悪いものは悪い」、または「悪いに決まっていることについて、どうして改めて考える必要があるのか」という応答があるかもしれません。
しかし、それらは、「戦争が悪いとされる理由」を考えた上での応答とは限りません。「悪いものは悪い」という主張(思い込み?)だけかもしれませんし、実は「悪い」ことの理由を考えていない(気づいていない、または考えることを放棄している)のかもしれません。
もし戦争は悪いと考えるならば、きっと理由があるはずです。「なぜ悪いのか」が分からずに、「悪い」ということを本当に分かったといえるのでしょうか。
さらに、「悪い」と考える理由も、自分だけで理解しているのでは十分ではありません。ひょっとしたら、理解しているつもりでも本当は理解していないのかもしれませんし、間違った理解をしているかもしれません。さらに、「悪い」と考える理由が示されなければ、それに納得できない人もいるでしょう。果たして自分の考えは「正しい(考えに筋道が通っている)」のか、これを知ることが「考えること」の一部なのです。
自分の考えの正しさを知るためには、自分の考えを相手に伝え、相手の考えを聞き、理解し、必要に応じて考え直す必要があります。自分の考えを相手に伝えるためには、「なぜ自分は戦争を悪いと考えるのか」について筋道の通った考えを提示することが求められます。相手の考えを聞き、理解することによって、自分の考えの正しさを検討し、正しいことを確認したり、間違っていることに気づいたりすることができます。そして、もし自分の考えに間違えを気づいたときには、考え直すことができるのです。
このような作業を通し、私たちは「戦争は悪い」ということを、筋の通った理由によって理解します。そこで初めて「戦争は悪い」ということが分かり、その考えの正しさを理解したといえるでしょう。これが「戦争を倫理学的に考えること」、つまり戦争倫理学の営みの本質なのです。このことを提示するのが本書の目的です。
まずは戦争と平和の倫理を巡る議論があるということを多くの方々に知っていただきたいと考え、本書を執筆しました。もし本書が戦争と平和の倫理を巡る議論に資すとするならば、著者として望外の喜びです。
外部リンク
〔出版社〕大隅書店の紹介ページ
〔関連イベント〕応用倫理研究会「今、改めて 戦争について考えよう」