内容紹介
寒冷地に紡がれてきた心と暮らしの物語——
人間にとって不可欠な物質である水。この自然の賜物をめぐる状況が、近年の地球環境の急速な変化により、刻一刻と変わりつつある。地球温暖化の影響が最も顕著に現れると予測される極北地域、そこで水そして雪・氷に囲まれて暮らす人々は、その自然環境にどのように対峙し、物語や伝説の中にどう描きだしてきたのか。北方に生きる人々の自然観・世界観をフィールドワークや文献資料を通して垣間見ることで、これからの人間と自然環境の共存のあり方を考える。
本邦初紹介や未紹介の伝説・伝承を多数収録。
(本書表紙より)
著者からのコメント
第一部ではアイヌ語十勝方言(高橋靖以、元文学研究科専門研究員)、ウイルタ語(山田祥子、文学研究科卒業生)、ニヴフ語(丹菊逸治、本学教員)、イテリメン語(小野智香子)、アリュートル語(永山ゆかり、文学研究科教員)、ユカギール語(長崎郁)、サハ語(江畑冬生)のフォークロアと歌謡(荏原小百合、文学研究科専門研究員)を原文から直接日本語に訳出して紹介しています。いずれも執筆者がフィールドワークで採録した資料で、さまざまなシベリア先住民言語のフォークロアを原文からの訳を中心に集めたのは本書が初めてです。
第二部ではロシアおよびヨーロッパの文献資料を中心に水・雪・氷に関連するフォークロアを紹介しています。ロシアおよびヨーロッパのフォークロアはこれまでにも多数訳出されていますが、水・雪・氷に関するものだけを集めたのが本書の特色です。この地域のフォークロアに共通する特徴として、水が災害をもたらす恐ろしいものとして描かれる一方で、水が邪悪なものを祓う力を持つなど、人間にとって有益なものとして描かれるという両義性があげられます。
なお、タイトルにあげた「水・雪・氷」は、第一部のシベリア先住民の世界観ではあまり重要視されていないようで、少しでも関連するものをどうにか集めて採録しました。日本昔話やヨーロッパの昔話と比べると、登場人物やストーリー展開は異質なものに見えるかもしれませんが、その一方で日本昔話とよく似た構成を持つものもあります。これまでに聞いたり、あるいは読んだりした昔話との対比をお楽しみください。
第一部各章の扉絵には各民族のアーティストの作品(刺繍、イラスト、切り絵等)を使っています。北方に暮らす人々の世界観を感じていただけると幸いです。
外部リンク
〔出版社〕勉誠出版の紹介ページ