内容紹介
遺族が死者に結婚させる習俗を「死者の結婚」という。結婚が歴史や地域文化により社会的に構成された制度・文化であることを,東北地方の「ムカサリ[結婚]絵馬習俗」調査を軸に,東アジア社会特有の冥婚習俗やアフリカの亡霊婚,女性婚等の事例を通して考察し,結婚の意味や社会的機能をリアルに認識する素材を提供する。
(北大文学研究科ライブラリ 3)
著者からのコメント
人はなぜ結婚してきたのか?子供をえるのに結婚以外の仕組みをなぜ作らなかったのか?結婚は人生に必要なものか?未婚化社会、無縁化社会の現代日本において、「結婚」にまつわる素朴な疑問を、生きている私たちの視線ではなく、死んだ人々の視線から考えてみようというのが本書の構想です。
『死者の結婚』のタイトルは、未婚で亡くなった人に対して同じく未婚でなくなった異性を結婚相手として配する冥婚、霊界結婚を分かりやすく示したものです。東アジアでは、未婚で亡くなったものは先祖になれない、遺恨を残すという観念が強く、冥婚習俗の様々なバリエーションがあります。この死者に対する結婚儀礼の種々の類型を社会構造や文化動態の観点から考察しました。
学問的にいうと、宗教民俗学・比較民俗学に冥婚の優れた研究があるのですが、 山形県のムカサリ絵馬奉納、 青森県の花嫁人形奉納の分析を加えたことが、本書の資料的価値と考えます。次いで、 宗教民俗の現象を地域の文化的固有性と捉えずに、東アジアの範囲で歴史的構築性を明らかにした点、 祖先崇拝(家父長制の規範的儀礼)とシャーマニズム(先祖になれないもの/女性の解怨的儀礼)の相補性が死者に対する結婚の儀礼に見られることを指摘した点も、冥婚研究の地平拡大に寄与したと思われます。
さあ、人はなんで結婚するんだろう。しなけりゃいけないものか、なんて考えている人は是非ご一読ください。結婚というのはストレートに考えたら分かりにくいものですが、死者の語りを通してそこはかとなく分かってくることがあるものです。(櫻井義秀)