内容紹介
「正しい戦争」はあるのか。
ある種の物理的強制力の行使は時として正義に適うかもしれないが, 同時にそのような行為は常に道徳的批判にさらされることになる。戦争と平和を巡る倫理について,なかでも最重要な問題のひとつである民間人保護を応用倫理 学の立場から包括的, 体系的に検討。解決のための一つの糸口を提供する。
(北海道大学大学院文学研究科研究叢書 15)
著者からのコメント
「戦争に倫理はあるのか?」、「戦争に正義はあるのか?」―これらは誰もが抱く問いかもしれない。一般論として戦争が悪いことは誰もが知っている。また、戦争がない方がよいということもまた、大多数が信じるところであろう。私はこのことを否定するつもりはない。むしろ、そのような考えに同意する。
しかし、世界各地は武力紛争が起きているという現実がある。おそらく、我々の生きているうちに武力紛争を地球上から根絶することはできないように思われる。もちろん、武力紛争がなくならないからといって、「武力紛争をなくすための努力をすべきではない」とか、「どうせなくならないのであるから努力は無駄である」といったニヒリスティックな主張をしたいのではない。強調したいことは、「もし武力紛争をなくすことが難しいのであれば、それを抑制・制限することが肝要であり、さしあたってそのことを通して民間人の苦難や被害を軽減すべき方策を考えること重要かつ必要ではないか」という点にある。
本書の目的は、武力紛争において最も弱い立場にあり、また最も不正を被ることになる民間人の保護について、倫理学的見地からその正当性と必要性を論じ、またそのための具体案を探ることにある。そのために、民間人保護の根拠、既存の法的・倫理的枠組みの批判的検討、武力紛争の実例、正義概念の再検討、政府や軍や使命や役割、新たな武力行使の可能性としての人道介入について各章で論じている。