2010.03.22

民間人保護の倫理

戦争における道徳の探求
著者名:
外部著者名、外部訳者名、外部著者名、自由記入欄
文学院・文学研究院教員:
眞嶋 俊造(元教員) まじま しゅんぞう

内容紹介

「正しい戦争」はあるのか。
ある種の物理的強制力の行使は時として正義に適うかもしれないが, 同時にそのような行為は常に道徳的批判にさらされることになる。戦争と平和を巡る倫理について,なかでも最重要な問題のひとつである民間人保護を応用倫理 学の立場から包括的, 体系的に検討。解決のための一つの糸口を提供する。

 
(北海道大学大学院文学研究科研究叢書 15)

著者からのコメント

 「戦争に倫理はあるのか?」、「戦争に正義はあるのか?」―これらは誰もが抱く問いかもしれない。一般論として戦争が悪いことは誰もが知っている。また、戦争がない方がよいということもまた、大多数が信じるところであろう。私はこのことを否定するつもりはない。むしろ、そのような考えに同意する。
 しかし、世界各地は武力紛争が起きているという現実がある。おそらく、我々の生きているうちに武力紛争を地球上から根絶することはできないように思われる。もちろん、武力紛争がなくならないからといって、「武力紛争をなくすための努力をすべきではない」とか、「どうせなくならないのであるから努力は無駄である」といったニヒリスティックな主張をしたいのではない。強調したいことは、「もし武力紛争をなくすことが難しいのであれば、それを抑制・制限することが肝要であり、さしあたってそのことを通して民間人の苦難や被害を軽減すべき方策を考えること重要かつ必要ではないか」という点にある。
 本書の目的は、武力紛争において最も弱い立場にあり、また最も不正を被ることになる民間人の保護について、倫理学的見地からその正当性と必要性を論じ、またそのための具体案を探ることにある。そのために、民間人保護の根拠、既存の法的・倫理的枠組みの批判的検討、武力紛争の実例、正義概念の再検討、政府や軍や使命や役割、新たな武力行使の可能性としての人道介入について各章で論じている。

ISBN: 9784832967267
発行日: 2010.03.22
体裁: A5判 186ページ
定価: 本体価格3,000円+税
出版社: 北海道大学出版会
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

はしがき
序 章 なぜ戦争倫理か?, なぜ民間人保護の倫理か?
一 なぜ戦争倫理か?
二 なぜ民間人保護の倫理か?
三 本書の構成
第一章 民間人保護を正当化する根拠
はじめに
一 道徳的に罪がないこと
二 無害であること
三 責  任
四 権  利
五 人生の意味
ま と め
第二章 正戦論における民間人保護――その建設的批判
はじめに
一 正戦論の概観と民間人保護
二 正戦論と民間人保護の原則
1 非戦闘員免除/2 比例性/3 二重効果
三 回復的正義としての補償
ま と め
第三章 民間人保護はレトリックか?
――イスラエル・パレスチナ紛争を例として
はじめに
一 自衛および国家安全保障――保護対象となる民間人の範囲
二 先制および予防――結果主義的正当化の限界
三 懲罰・報復, 占領への抵抗手段
四 人間の盾
ま と め
第四章 戦争における正義・効用・民間人保護
はじめに
一 正義・人為的徳・効用
二 民間人保護のための道徳的価値としての効用
三 第一の範囲解釈――紛争当事者間の互恵としての効用
四 第一の範囲解釈の批判的検討
五 互恵以外に効用を支持する要素
六 第二の範囲解釈――地球規模での効用
ま と め
第五章 民間人保護と軍事専門職倫理
はじめに
一 民間人保護が履行されない四つの理由
二 軍事専門職倫理としての民間人保護
1 民間人保護を軍事専門職倫理に組み込む理由/
2 軍事訓練および教育/3 起こりうる問題の検討
三 政府の役割と軍の課題
1 政府の役割/2 軍の課題
ま と め
第六章 民間人を保護する責任――人道的介入で保護は可能か?
はじめに
一 民間人を保護する責任――人道的武力介入のための「新」正戦論
二 二つのジレンマ――民間人保護の責任に関する批判的検討
三 民間人犠牲者への回復的正義
四 民間人犠牲者に対する法的アプローチの限界
五 人道的武力介入における民間人犠牲者の問題の解決方法
ま と め
むすびにかえて
補 論 正戦の基準
一 戦争の正義
1 正当な理由/2 正当な機関/3 正しい意図/4 最終手段/
5 成功する見込み/6 比例性
二 戦争における正義
1 非戦闘員免除/2 比例性
あとがき/注/参考文献