内容紹介
本書はオランダ北西部のフリースラント州で約35~40万人の話者を数える西フリジア語の文法記述です。西フリジア語はオランダ語と並ぶ同州の公用語で、英語と最も歴史的関係が深い北海ゲルマン語の後裔です。北ドイツの北フリジア語 (約9千~1万人) と東フリジア語 (ドイツ語読みでザーターフリジア語、約1500~2500人) とともにフリジア語群を形成しますが、3者は相互理解が不可能なほど異なっています。
著者からのコメント
西フリジア語は歴史言語学的に見て、英語と最も近い関係にあるゲルマン語です。しかし、一見して明らかなように、両言語には相当な隔たりがあります。言語というものは、独自の発達や他言語との接触を通じて、大きな変貌を遂げることがわかります。ただし、もしフランス語を強要された中世の時代がなかったら、英語は西フリジア語のような言語になっていただろうと早合点するのは禁物です。西フリジア語もまた、隣接するオランダ語から大きな影響を受けてきました。現在、西フリジア語の話者は全員がオランダ語との2言語使用者であり、とくに近年は、威信言語であるオランダ語の影響がますます強くなっています。
本書は、北海道大学に提出した博士論文「西フリジア語文法―現代北海ゲルマン語の体系的構造記述とゲルマン語類型論構築のための基礎的研究」(xiii+838ページ、A4版) をもとにしています。同博士論文は、1995~2004年に『北海道大学文学部紀要』と『北海道大学文学研究科紀要』に18回に分けて掲載した論考と『ドイツ文学』(日本独文学会) に投稿した論文に、その後の研究成果を補って完成したものです。通算8年間にわたる3回の科学研究費の交付、ドイツ学術交流会 (DAAD) およびオランダ政府奨学金 (NUFFIC) の援助による2度の在学研究の成果を生かし、学術振興会から研究成果公開促進費を受けて、出版にこぎつけました。本書の書評は、フリジア語学の国際誌 Us Wurk (jiergong 56/2007)、日本独文学会の『ドイツ文学』(132号 2007) などに掲載されています。私のフリジア語研究はフリジア語の国際化にささやかな貢献をもたらしたと評価され、オランダ学士院フリスケ・アカデミー (Fryske Akademy, KNAW) の正会員に任命され、在外フリジア人協会 (It Fryske Boun om Utens) から名誉会員に推挙される栄誉にもあずかりました。本書はまた、国立大学法人の第1期中期目標期間での研究業績評価において、最高度の学術的意義を有するとしてSS評価 (当該分野において、卓越した水準にある) を受けました。
ヨーロッパの言語文化には、江戸時代からの先達が開拓した領域以外にも、未知の分野がまだ数多く残されています。そして、その背景には例外なく、連綿と傾注されてきた言語擁護の歴史と学問的集積が屹立し、改めてヨーロッパ言語圏の重みを体感します。どんなマイナーな言語であっても、取り組む価値がないということはありません。昨今の情勢に鑑みて、少数言語を記述する社会的責任も感じるようになりました。私は文化の中心よりも、周辺文化の持つ魅力にひかれます。言語の本質からすれば自然とも言えますが、首都圏から北海道に移り住んだ事情が大きく関係していると思います。こうした問題意識を育んでいただいた北海道大学という環境に感謝しています。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ