2023.2.20

近松浄瑠璃と周辺

新典社研究叢書360
著者名:
冨田康之
文学院・文学研究院教員:
冨田 康之(名誉教授) とみた やすゆき

内容紹介

本書は近松門左衛門の世話物浄瑠璃を主に考察したものですが、視野を広げて近松の「画像辞世文」、『難波みやげ』、近松作品と同題材を扱った紀海音の世話浄瑠璃をも対象としました。また、『仮名手本忠臣蔵』は近松と海音の両者とも扱った題材であり、忠臣蔵集大成としての作品として取り上げました。また、「絵尽し」と呼ばれる資料について、絵の構図と読み進め方の方法を考察したものも含めました。

著者からのコメント

2004年3月に『海音と近松―その表現と趣向』(北海道大学出版会)を上梓しました。本書はその続編並びに補遺といった位置づけになります。できればそちらも併せて御覧頂ければ幸いです。さて、大学での授業で学生の皆さんと近松の世話浄瑠璃を長年にわたって読んできました。大変楽しい時間を過ごさせて頂きましたが、近松と触れ合う時間が長くなりますと、それとともに少しずつ作品に馴染めるようになっていった気がします。やはり研究というものは急いで成果を挙げようとしても思うようは行かず、じっくりと時間をかけた上でするのが良いように思います。例えば「第五章 『女殺油地獄』考 ―与兵衛はなぜ蚊に喰われたか―」について言えば、『近世文学研究事典』(桜楓社、1986年4月)で『女殺油地獄』の項目を担当させていただいたことが考える契機となったものです。当時はまだ大学院の学生でした。原稿を書くために研究史を辿る際は、正解のない問題のように思われた記憶があります。それから折に触れて何度も考えたのですが、全く分からないままでした。ところが、もう一つ「第二章 『浄瑠璃/文句評註 難波みやげ』考 ―執筆過程と評注の問題を巡って―」を書く前に、この本の全文を改めて翻字してみました。その時、近松の言説として掲載されている発端部(いわゆる「虚実皮膜論」)に加えてみるべき一文を見いだしたことがありました(因みに「難波土産」も『近世文学研究事典』で担当させてもらいました)。その文言を色々と考えているうちに、近松の表現により注目することになり、与兵衛の問題と絡めて考えるきっかけになった訳です。分からないことは、そこで諦めてしまうことなく、粘り強く考え続けることが大切であることに改めて気付いた出来事でした。

ISBN: 9784787943606
発行日: 2023.2.20
体裁: A5上製カバー・288頁
定価: 本体8600円+税
出版社: 新典社
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

近松の「画像辞世文」を読む

第1部 近松

第1章 『浄瑠璃文句評註 難波みやげ』考

第2章 『長町女腹切』論

第3章 『鑓の権三重帷子』考

第4章 『女殺油地獄』考

第5章 『今宮の心中』試論

第2部 近松の周辺

第1章 『傾城三度笠』考

第2章 『今宮心中丸腰連理松』考

付録1 紀海音と勅撰和歌集

付録2 紀海音と『和漢朗詠集』

第3章 『仮名手本忠臣蔵』の構想

第4章 【研究ノート】絵尽くしコマ割り考