内容紹介
アメリカ独立革命、フランス革命の衝撃を受けた18世紀末のイギリスでは、南北アメリカの黒人奴隷の解放を訴える運動が勃発し、「万人は生来にして自由」という人権理念が一挙に浸透した。奴隷貿易港リヴァプールですら、例外ではない。しかし間もなく、人権理念の破壊力を柔軟に受止めつつ、その享有主体をイギリスの成人男性に限定したり、あるいはそれを、アジア、アフリカの植民地支配の口実にしたりする企てが現れた。
著者からのコメント
「万人は生来にして自由」という人権理念は、中世以来の身分制を粉砕した後、人種、ジェンダー、エスニシティに関する差別の撤廃にも、一定の効果を発揮してきました。その潜在能力を結実させれば、社会的格差の解消、平和的生存の保障、環境破壊の抑止といった、現代のグローバリゼーションに付随する様々な課題の解決にも、一定の寄与を果たすことができます。
他方、人権理念は、白人中流階級の成年男性によってしか、十全には享受されてこなかった、という批判にも一理あります。加えて、欧米諸国は、アジア、アフリカ等の特定地域で見出した、個別的な人権侵害事例の解決を「錦の御旗」として、しばしば内政干渉、さらには植民地支配を正当化してきました。ゆえに人権論をこれ見よがしに無視し、笑い飛ばし、葬り去れという掛け声は、政治的党派の左右を問わず、共感を呼ぶ場合も少なくないようです。
しかし、めいめいが確信する正義を、実力で押し通そうとして相争う、人権理念なき世界に生きる覚悟はあるのでしょうか。本書は、そうではなく、歴史に学ぼうとする人びとの参考のために供されています。人権理念はどのような条件の下で生起し、成果を得るのでしょうか。それはまた、どのような作用によって、威力を限定されたり、当初の趣旨に反する目的のために濫用されたりするのでしょうか。人類の歴史の中にはヒントが溢れており、敢えてそれらを学ぼうとしないのは、大いなる損失に他ならないのです。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ