内容紹介
現存する日本最古の和歌集、『万葉集』に載る旅の歌を考察対象とする。表題の「羈旅(きりょ)」とは「旅」の意味で『万葉集』の題詞や標目に既に用いられている漢語であるが、それがどのような内実を担わされているのかを、個々の歌の表現理解に基づき明らかにする。併せて、〈家と旅〉といった、従来の羈旅歌論の前提的枠組みを再検討し、旅の歌の中で「家なる妹」がうたわれることの起源について、一つの見通しを示す。
著者からのコメント
私の初めての論文集です。刊行の機会をいただいた本学文学研究院に感謝いたします。近畿を中心とした伝統的な〈日本〉の中心から離れた北海道だからこそ、〈日本〉という制度の全体が見渡せるのではないかと思います。平安中期以降、京の内部で自足と洗練の度を深めていった貴族たちは、上代にあっては未だ、全国統治の担い手としての意識を堅持していました。本書はそうした観点から万葉の旅の歌、羈旅歌を分析したものです。東京や京阪と比べ、研究上「不利」と言われがちな北海道に長年、居住する者としての自負のようなものもあります。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ