内容紹介
アジア発の新たな公共宗教論の構築を目指して,第一線で活躍する9人の研究者が執筆。①歴史的な政教関係の構築,②グローバル化によるトランスナショナルな宗教運動の影響,③急速な社会変動と社会問題による人々の宗教文化への渇望の3点に着目した論考集。現代宗教が公共圏に参画する形態を比較社会学的に分析し,研究の最前線を論じる研究者必読の書。「現代宗教文化研究叢書」の9冊目である。
著者からのコメント
公共宗教というのは耳慣れない言葉と思う方が少なくないでしょう。公共的な宗教、公共性にかなった思想や行動を有する宗教という意味ではありません。これは公共哲学的な議論であり、このような宗教は現実的に存在しません。公共的領域(政治、教育、医療・福祉など)に積極的に参画し、社会に影響を与える宗教を本書では公共宗教ととらえています。ポジティブな影響かネガティブな影響かは価値判断に委ねられるものです。
厳格な政教分離の観念や制度化がすすみ、世俗性が強い日本では、公共領域に関わる宗教のあり方に懸念を持つ人も多いでしょう。しかし、戦前の社会事業や戦後の社会福祉や学校教育、平和運動に果たした宗教の役割は日本でも大きいものがあり、アジア社会に目を転じれば、宗教の役割を無視した政治・文化・教育・福祉の議論は不可能と言って過言ではありません。
東アジアで言えば、(大乗、チベット)仏教、キリスト教、イスラーム、在家主義新宗教、東南アジアでは上座仏教とイスラーム、南アジアではヒンドゥー教とイスラーム、シーク教、上座仏教や新生仏教、ユーラシア地域の西端に位置するスラブ世界では、正教とカトリックの社会的影響力は強大です。現代中国においても宗教の行政的管理が強化されるなか、世界で最もキリスト教と仏教が復興し、信者数を増加させている地域として注目されています。
日本でも政治と宗教の関係は深く、創価学会を支持母体とする公明党は自民党と連携して政権与党となっており、日本政治に影響力を行使しており、近年日本の右傾化で着目される日本会議他の政治団体に協力する宗教者や宗教団体もあります。
本書では、ホセ・カサノヴァが提唱した公共宗教論を再検討する舞台としてアジアの諸地域を設定し、政教関係の歴史的・現代的展開を分析することを通じて、公共領域に参画し、公共性の観念までも構築する現代宗教のあり方を考察します。つまり、西欧のキリスト教会を中心とした宗教観念や宗教組織・制度の認識をアジア地域の諸宗教に拡大したときに、カサノヴァの公共宗教論を発展的に乗り越え、同時に、アジアの個々の社会に現れる公共圏のすがたが描出できるのです。
編者他執筆者たちが科学研究費補助金を受けて調査研究し、国内外の諸学会で報告・討議してきた研究成果をわかりやすく報告しております。公共宗教論のような社会科学的理論研究のみならず、アジアの地域研究としても読める資料的価値のある書籍に仕上がっていると考えております。ご一読いただければさいわいです。
外部リンク
〔出版社〕北海道大学出版会の紹介ページ