内容紹介
食人の記録から、怪しい言語誌、SF宇宙論、魯迅、マジカル・リアリズムの話題作、さらには天安門事件の共産党声明文まで。中国人が綴ってきた「人を喰ったはなし」を幅広く取り上げ、中国的感性の途方もない巨大さを丸ごとすくいあげた異色のアンソロジー。現実がフィクションを食いつくす恐怖の記録。
著者からのコメント
中国の怪談と聞いて、六朝の志怪小説『捜神記』や、唐代の伝奇小説、あるいは清代の『聊斎志異』などを思い浮かべるかたも多いでしょうが、そんなものはひとつも入ってません。中国の「由緒正しい」怪談を読みたい向きには、とんだ期待はずれでしょう。アンソロジーとして一本筋を通したのは、「人を喰う」というテーマです。
今回の文庫本は、1992年に出版されたものの新装版です。編集のはなしが来たのは、1989年6月4日の「天安門事件」の直後で、当時、私は北大文学部の助手でした。共編者の中野美代子先生(当時、北大言語文化部教授)からは、「君の好きなようにやればいい」と言われて、お引き受けしました。また「手垢のついたような中国怪談集は作らない」ことも確認しました。出版社のほうは、ちょっと渋ったようですが。中国学のエライ先生がたのなかには眉を顰めたかたもいらっしゃった由。ひそかにほくそ笑んだものです。最終的に、「国家が人の肉を喰らうはなし」が、本アンソロジー最大のテーマになってしまいました。あの事件から30年を経て再版された新装版です。