内容紹介
人口減少社会・超高齢化社会の出現により、日本の経済と地域社会、医療や年金、学校や職場はどうなるのでしょうか。過疎化や個人化で地域や家族が変わりゆく中、人生の記憶を今につなぐ寺や神社、教会は、社会とどう向き合い、先行き不透明な社会を手探りで歩く現代人にどう関わっていくのでしょう。
本書では、人口減少時代、世俗化する現代社会にある宗教の今日を叙述しながら、現代人の幸せとどこかで関係を取り結ぼうとする宗教の将来を展望します。宗教と社会のつながりや宗教文化のあり方を一般の方々にも理解していただけるような宗教文化論として、読みやすく平易に語ります。本書を通して日本の宗教文化を再評価していただければ幸いです。
(文学研究科ライブラリ14)
著者からのコメント
以下は、あとがき、に書いたことを要約したものです。
『人口減少時代の宗教文化論-宗教は人を幸せにするか』というタイトルのわりには、「宗教」そのものを論じていないという印象を受けた人が少なくないと思います。私の場合、宗教社会学が専門なのですが、宗教三割、社会七割で論じています。それは社会学の教員として三〇年間社会学を講じ続けたために、宗教研究でありながら、宗教という花を描くための地である社会を描くことの方に関心が向くからかもしれません。
もう一つ、日本において「宗教」だけを描くことは困難になりつつあるという状況のせいもあります。その典型が地域の過疎化、個人化する家族、そして総体としても人口減少社会です。宗教施設や信仰の継承そのものを成立させる土台が崩れている現状を前にして、個々の寺院、神社、教会などの宗教施設や宗教者だけを叙述しても宗教全体を説明したことにならないのです。しかも、日本では初詣や墓参り、お祓いや聖地観光などをしてしまう無宗教を自認する人々が多数派であり、緩和ケアにスピリチュアルケアを加えたり、復興支援におかげさまといった無自覚の宗教性を発揮したりする風土があるので、「宗教」論ではなく「宗教文化」論になるのです。
さて、二〇一一年から宗教文化を研究・教育している大学教員数十名が、日本や世界の宗教文化に対する理解を深める教育システム構築の一環として「宗教文化士」という認定資格をつくりました。私は制度設立の準備段階から運営委員として関わり、『よくわかる宗教学』(櫻井義秀・平藤喜久子編、ミネルヴァ書房、二〇一五年)というテキスト作成なども手がけましたが、自身の宗教文化論を展開するまでには至りませんでした。本書は私なりの宗教文化論ですが、現代宗教の現状と課題を叙述し、特に、現代宗教によって私たちは幸せになるのかというオーソドックスな問いをたてました。なぜ、このような問いが必要なのかを理解いただけたら、本書の課題設定的な役目が果たせたのではないかと思います。