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掲載日:2018年10月26日

【学芸リカプロ】「企画展立案スキル(1)資料の保存と活用の新しい考え方」 10/1 岡岩太郎氏の講義レポート

「資料の保存と活用の新しい考え方」

講師:岡 岩太郎氏(株式会社岡墨光堂 代表取締役)

文学研究科 修士課程2年 黄潤淇

今回の講義では、株式会社岡墨光堂の岡岩太郎氏から、装潢文化財の修理技術や修理設計書の読解などについて幅広くお話をうかがいました。

株式会社岡墨光堂は、劣化した国宝や重要文化財の表装と修理を中心とし、文化財修理の最前線に立ち続けてきました。修理された作品だけでなく、修復のプロセス自体が展覧会で紹介されたものもあります。

岡氏はまず、劣化した掛軸の解体作業に関して、模式図に基づいて解説してくれました。裏打紙の説明の際には、肌裏紙用の美濃紙・増裏紙用の美栖紙・総裏紙用の宇陀紙の見本を回してくださったので、受講生は実際にそれぞれの紙の異なるところを実感することができました。裏打紙の接着と取り替えなどについても、作業映像を交えながら詳しくわかりやすくご紹介いただき、装潢修理に関する基礎知識を学ぶことができました。

そして、修理に適した材料と条件、修理における重要な工程に関しては、修復技術研究と重要文化財の取扱い関連法規にも触れられていました。特に解体するとき肌裏紙の除去を行う一般的な「湿式肌上げ法」と、比較的新しい「乾式肌上げ法」の相違点を深く知ることができました。

また、日本における文化財への修理原則や、輸送・展示前後の点検の話もありました。修理ではリバーシビリティの原則が一般的ですが、完全なリバーシビリティを達成することは技術的に非常に難しいため、どんな立場に基づいて記録を残すのかという点も重要になってくるそうです。その場合に必要な技術者としての文化財への責任は、学芸員にとっても決して他人事ではないということを改めて意識しました。

札幌芸術の森美術館 坂本真惟

本講義では、株式会社岡墨光堂の代表取締役である岡岩太郎氏より、装潢文化財の修理に関する基礎知識、課題について、掛軸を中心に最前線の具体例を交えてうかがいました。

前半は掛軸の機能や構造、修理について学びました。掛軸は本紙と呼ばれる書画の裏面に素材の違う4枚の和紙が接着された積層構造を持ちます。これにより、掛軸の機能である、「まっすぐに掛かる」、「しなやかに巻ける」ことが実現しています。しかしその巻いたり開いたりを繰り返す性質ゆえに、損傷してしまうのも事実です。ならば掛軸をパネルにすることを考えますが、その方がかえってダメージを与えてしまうそうです。本来の姿で保存・展示し、50~100年に1度裏打紙を取り替えることで、作品がよりよい状態で受け継がれていきます。

岡氏のお話をうかがって美術工芸品は物質であるということ再認識しました。絵画であれば、支持体に絵の具等が載っているのですが、私たちは目の前に現れているイメージが先行してしまい、そのイメージを構成しているものが物質であるということを忘れがちです。作品を取り扱う学芸員として二つの視点を持つべきだと強く思いました。

後半は実際の修理設計書を読解したのち、現在の修復が抱える問題についてうかがいました。修理は装潢師に依頼しますが、学芸員も修理についての知識がなければ、提出された仕様書に疑問を抱くことができません。さまざまな実例を見ながら、大切な作品を守るためには修復の知識、学芸員と装潢師との協議が重要だということを学びました。日本での修理は可能な限り恣意的な加筆を回避する地色補彩が主流で、現在これにも限界が見えてきています。過去の補修によって付加されたものは原則的に取り除くことになっていますが、果たしてこれでいいのか。どの地点に真正性をもっていくのかが鍵となります。文化財を守る立場である私たち学芸員がこのような議論を活発にしていき、100年先の未来まで素晴らしい作品を伝えていく使命があると感じました。

札幌市公文書館 吉川真名

株式会社岡墨光堂は、これまで数々の絵画・書跡分野における国宝や重要文化財等の修理に携わってきました。本講義では、代表取締役を務めておられる岡岩太郎氏より、装潢修理技術に関する基礎知識、現在の修理の現場が抱える課題点についてお話いただきました。修理を通して資料に真剣に向き合ってきた岡氏のお話は、資料の保存(修理・劣化防止措置)と活用(公開・展示)という、相反する役割を果たさなければならない学芸員の使命について、深く考える機会となりました。

装潢とは、絹や紙などの繊細な素地に描かれる書画に裂地や紙を補い、掛軸・屏風・襖など鑑賞や保存に適する形式に仕立てることで、東洋の書画の修理には欠かせない伝統技術でもあります。今回は装潢文化財に分類される美術工芸品のうち、掛軸に焦点を当てその構造や材料に関する知識、資料に発生する損傷の原因や種類について詳しくお話しいただきました。さらに、実際の修理工程と修理材料について、映像も交えながら具体的に学びました。

資料は適切な管理下で保管されていても、時の経過ともに劣化し、折れ傷や亀裂、欠損や彩色層の剥落等が生じ、作品の価値や寿命が損なわれてしまいます。展示も劣化を招く一要因であり、十分な予防的措置が必要となります。具体例として、現在フランスで開催されている展覧会『若冲―〈動植綵絵〉を中心に』で、資料の輸送や展示には最新の注意が払われ、触診等による綿密な点検が複数回行われているという話を伺いました。

岡氏は資料を長く後世に守り継いでいくためには資料研究はもちろん、修理がもたらす影響についても深く知ることが重要だとしています。修理は時として資料のオリジナリティを著しく損なう原因となりうる。そのことを知った上で、学芸員も含め十分に議論し、その時の最善をつくすことが大切だという言葉が印象に残りました。

また、近年、専門的な技術を持たない人の手による不適切な修復で、貴重な文化財が失われる事例が世界中で起こっています。岡氏はこの背景には、「倫理観の欠如」が大きいと指摘しています。この現状に対し、あえて破損した資料をそのまま展示し、修理保存に関する正しい知識や倫理観を伝える事を目的とした展覧会の事例を紹介されました。現在、資料が直面している危機を共有するという、従来の展覧会にはない機能性を持たせた新たな試みであると思いました。

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