2025.3.10

ロシア中東欧のエコクリティシズム

スラヴ文学と環境問題の諸相
著者名:
小椋 彩 中村 唯史 編
文学院・文学研究院教員:
小椋 彩 おぐら ひかる 教員ページ

内容紹介

ポーランドの炭鉱、チェコの森、ウクライナの麦畑……ロシア・中東欧の厳しくも豊かな自然は、文学や絵画でどのように描かれているのか。
国家や民族の問題が影を落とすロシア・中東欧文学を、地政学や文明論を超えたエコクリティシズムの観点から批評し、新たな読解の枠組を提示する。

著者からのコメント

本書は科研費プロジェクトの成果論集として、ロシア・中東欧地域のスラヴ語圏と、ジョージア、イギリス、日本をフィールドに研究する文学者、社会学者、文化人類学者の論考を集め、広範な視野から「文化」と「環境」の関係をとらえようというものです。
古来、土地や自然は様々な文化圏で、それぞれ独自的価値を付与されてきましたが、ロシア・中東欧の自然を考えるにあたっては、この一帯が「共産主義」と「帝国主義」の過去を共有し、それが、程度の差はあれ地域特有の環境問題をつくっていることに留意する必要があります。欧州の比較的狭い地域に集まるスラヴ語圏は、言語に由来する共通の文化基盤を有する一方で、旧共産圏と地勢的にほぼ重なり合い、地域に発する環境危機は、国家の環境政策やグローバリズムの議論と分かちがたく結んでいます。それらが、倫理的・政治的な複雑さを伴い、ポストコロニアリズムや、マイノリティの存在を踏まえた文学史書き換えの要請へ向かうことを、本書内の複数の論考が示しています。
人文学に環境や社会問題に対する働きかけを求める傾向は世界的に強まっており、こうした時代趨勢に応じた批評としてのエコクリシティズムは、一層存在感を増しています。編著者の一人として本書に関わるうち、北海道の豊かな自然についてもたびたび思いを巡らせるようになりました。読者のみなさんにとってもこの本が、人間の営みと環境について考えるきっかけの一つになれば、こんなにうれしいことはありません。

 

 

ISBN: 9784801008533
発行日: 2025.3.10
体裁: A5判・376頁+カラー別丁8頁
定価: 本体価格: 5,000円+税
出版社: 水声社
本文言語: 日本語

〈主要目次紹介〉

はじめに 小椋 彩

 

第1部 鉱山の光景
序 中村唯史
鉱山の記憶――カルヴィナーとヤーヒモフの事例 阿部賢一
ポーランド、上シロンスク地域における「自然」としてのボタ山 菅原 祥
神話の解体――「モラルの不安の映画」と炭鉱・労働・労働者 小椋 彩
ワシーリー・グロスマンの短編『生』に見る労働者―炭鉱―自然の連帯の神話 中村唯史

 

第2部 スラヴの森
序 小椋 彩
「ボヘミアの森」の表象 阿部賢一
ソ連時代のベラルーシの原生林とバイソンのイメージ 越野 剛
森で死者の声を聴く――現代ポーランド文学の事例から 菅原 祥
森で目に見えない存在を聞く――ブルガリアの森をめぐる語りに関する試論 松前もゆる
北の隣人たち――エコクリティシズムおよびポストコロニアリズムの視点から見たロシア北極圏先住民文学 ティンティ・クラプリ(小椋 彩訳)

 

第3部 パストラル
序 中村唯史
ウィリアム・ワーズワスの描く英国湖水地方の自然と共同体――パストラル、エコロジー、ナショナル 吉川朗子
移動派農村絵画におけるパストラル――《ライ麦畑》を起点にして 井伊裕子
A・カズベギ「ぼくが羊飼いだった頃の話」におけるパストラルの諸相 五月女 颯
幸田露伴の水都東京論――日本のパストラル受容の一つとして 伊東弘樹

 

自然は近代を超えて語ることができるか――「あとがき」に代えて 中村唯史