内容紹介
ポーランドの炭鉱、チェコの森、ウクライナの麦畑……ロシア・中東欧の厳しくも豊かな自然は、文学や絵画でどのように描かれているのか。
国家や民族の問題が影を落とすロシア・中東欧文学を、地政学や文明論を超えたエコクリティシズムの観点から批評し、新たな読解の枠組を提示する。
著者からのコメント
本書は科研費プロジェクトの成果論集として、ロシア・中東欧地域のスラヴ語圏と、ジョージア、イギリス、日本をフィールドに研究する文学者、社会学者、文化人類学者の論考を集め、広範な視野から「文化」と「環境」の関係をとらえようというものです。
古来、土地や自然は様々な文化圏で、それぞれ独自的価値を付与されてきましたが、ロシア・中東欧の自然を考えるにあたっては、この一帯が「共産主義」と「帝国主義」の過去を共有し、それが、程度の差はあれ地域特有の環境問題をつくっていることに留意する必要があります。欧州の比較的狭い地域に集まるスラヴ語圏は、言語に由来する共通の文化基盤を有する一方で、旧共産圏と地勢的にほぼ重なり合い、地域に発する環境危機は、国家の環境政策やグローバリズムの議論と分かちがたく結んでいます。それらが、倫理的・政治的な複雑さを伴い、ポストコロニアリズムや、マイノリティの存在を踏まえた文学史書き換えの要請へ向かうことを、本書内の複数の論考が示しています。
人文学に環境や社会問題に対する働きかけを求める傾向は世界的に強まっており、こうした時代趨勢に応じた批評としてのエコクリシティズムは、一層存在感を増しています。編著者の一人として本書に関わるうち、北海道の豊かな自然についてもたびたび思いを巡らせるようになりました。読者のみなさんにとってもこの本が、人間の営みと環境について考えるきっかけの一つになれば、こんなにうれしいことはありません。
外部リンク
〔出版社〕水声社の紹介ページ