• 2017.02.02

協力する種

制度と心の共進化

著者名: サミュエル・ボウルズ、ハーバート・ギンタス(著)
竹澤正哲(監訳)、大槻久、高橋伸幸、稲葉美里、波多野礼佳(訳)
文学研究科教員:
<主要目次紹介>
第1章 協力する種
第2章 人間における利他性の進化
第3章 社会的選好
第4章 ヒトの協力の社会生物学
第5章 協力するホモ・エコノミクス
第6章 祖先人類の社会
第7章 制度と行動の共進化
第8章 偏狭さ、利他性、戦争
第9章 強い互恵性の進化
第10章 社会化
第11章 社会的感情
第12章 結論:人間の協力とその進化

内容紹介

人間は、互いに協力し合って社会を支えている生物である。人間だけでなく、他の生物種においても協力という現象は存在しているもの、人間社会における協力は、その規模の大きさ、範囲の広さにおいて際立っている。なぜ、人間という種は、これほどまでに協力的な社会を作り出すことに成功し得たのだろうか。本書は進化ゲーム理論、心理学、経済学、人類学、考古学、進化生物学、集団遺伝学、神経科学といった領域の知見を援用して、この謎の解明を試みた書である。

著者からのコメント

協力の進化は、2005年にScience誌において現代の科学者が直面する25の最重要課題の一つに選ばれ、自然科学から社会科学に渡って数多くの研究が行われてきたテーマです。本書は、人間社会における協力の進化について書かれた本です。

本書が出版されると、世界中の研究者から賛否両論、激しい議論が巻き起こりました。翻訳に取り組んだ我々も、本書にはいくつかの瑕疵が含まれていると考えています。しかし、それでも我々が翻訳に取り組んだのには理由があります。

第一に、本書が持つスケールの壮大さです。本書はまず、精緻な数理モデルによって利他性という心の性質と、協力を支える制度が共進化する条件を明らかにします。そして人類学や考古学、遺伝学などの実証データを縦横無尽に利用して、数百万年に渡る人間の進化史が、抽象的な数理モデルによってうまく捉えられているのだと主張します。これだけのスケールで、人間の協力の進化を説明することは、研究者なら誰もが必要だと感じていながら、しかし誰も成し得なかったことでした。しかも著者は2人とも、かつてはマルクス経済学、ラディカル政治経済学の旗手として名が知られた理論経済学者です。そのような背景を持つ研究者が、心理学から神経科学、人類学から考古学、遺伝学に至る領域を渉猟し、自然科学を基盤として人間の社会と心の進化を説明しようとしたことにも、感嘆の念を感じざるを得ません。たとえ将来、本書の主張が誤りであることが証明されたとしても、研究者が目指すべき到達点を高めたという、本書の功績が消えることはないでしょう。

第二に、本書は協力の進化に関心を持つ者ならば誰もが知るべき理論や実証データがまとめられた、優れた教科書となっているからです。翻訳に際しては、この側面を強化するため、数理生態学者(大槻久)によるコラムを各所に配置し、血縁淘汰、プライス方程式、群淘汰など誤解を招きやすい概念について丁寧に解説しました。また訳者解説では、本書の研究史上の位置づけ、本書に対する理論・実証サイドからの批判、日本語文献ガイドなどを50頁に渡って紹介し、協力の進化という、エキサイティングな研究テーマの最先端を理解してもらえるよう工夫を凝らしています。

近年、自然科学の延長線上に社会科学の諸領域を統合しようとする動きが胎動し、進化社会科学とでも呼ばれるべき領域が立ち上がりつつあります。私が解説を執筆した「文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか」と合わせ、この大きな知的潮流を、本書から感じ取ってもらえれば、監訳者としてはとても嬉しく思います。